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魔法使い(30歳・♂・独身)の愉快な転生ライフ  作者: 九十九五十六
第二章 魔法少女の小さな大冒険編
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第三十四話 童帝と魔法少女は語り合う

 謎のオオカミ人間との戦闘、麻帆ちゃんの変身と魔法など、状況を飲み込めない俺たち(特に麻女さん)は、とりあえず麻女宅に集まってたこ焼きパーティーをしていた。

 結局四葉を呼べる雰囲気でも無く、ついでにパーティーなんて洒落た雰囲気でも無いけれど、三人でご飯を食べながら話し合おうと言うことになったのだ。

 色々面倒なことが起こったのでとても気まずい。皆口を閉ざしているし、麻女さんなんてただたこ焼きをひっくり返しているマシーンと化している。


「あの、桜童さん……」


「な、なんだい、麻帆ちゃん?」


 そんな気まずい沈黙を最初に破ったのは、麻帆ちゃんだった。


「さっきは、その…… 急に叫んだりしてごめんなさいっ!!」


「あぁ、あれは俺も悪かったからね。俺の方こそごめんね」


「いえ、そんなこと、無いです」


 あのときは急なことだったとは言え、いきなり抱きついてしまった俺が悪い。それにまだ結界が生きてたから、通報されるなんて恐ろしい未来は来なかったしね。

 それはそうと、会話が途切れてしまったことでまた気まずい空気が流れ始めた。どうにかして流れを変えなければ……


「とりあえず色々聞きたいこともあると思うけど、最初に聞かせて欲しい。あのオオカミ人間は何なんだ?」


「あっ……」


 俺が話を切り出すと、麻帆ちゃんは顔を伏せた後、覚悟を決めたような眼をして顔を上げた。そして、姿勢を正したまま、静かに口を開いた。


「桜童さんのいう狼男、あれはアクユメという恐ろしい怪物です」


「アクユメ?」


 何というか、ちょっと間の抜けた名前でびっくりした。実際に戦った感じからすると、そんなのよりもっと恐ろしい、禍々しい感じの名前かと思っていた。

 麻帆ちゃんは俺の問いにうなずくと、言葉を続ける。


「アクユメは人の悪い心に住み着いて、人の悪の心を大きく育てていきます」


「そして、その悪の心と一緒にアクユメも成長して、宿主から出て実体化します」


 麻帆ちゃんの握る手に力が入る、その表情はとても悲しげに見えた。


「実体化したアクユメは自分の思うがままに暴れて人々を傷つける恐ろしい怪物です」


「私は、そんな彼らから人々を守るために戦ってきました」


 なるほど、あの怪物のことはなんとなくわかった。しかし、俺にとって大切なのは次の質問だ。その答えによっては面倒なことになる。

 ……いや、どっちも面倒なことになりそうだ。


「それじゃあ、もうひとつ質問がある。君は、何者だい?」


「それは……」


 麻帆ちゃんは言いよどむと、麻女さんのほうをちらっと見た。麻女さんはその視線に気づくと、優し気な表情を浮かべて麻帆ちゃんに語り掛けた。


「大丈夫よ麻帆ちゃん、私口は堅いほうだから」


「それにね、私もあなたのことが知りたいの。たとえどんなに信じられないような話でも、絶対に馬鹿になんてしないわ」


「お姉さん……」


 麻女さんは優しい声色で語りながらも、強い決意を感じられた。麻帆ちゃんもそれを感じたのか数秒だけ黙り込み、意を決して話し始めた。


「私、実は魔法少女なんです。しかも、この世界ではない別の世界の」


 その言葉を皮切りに、彼女は今までのことを話し始めた。

 前の世界で人々を守るために自分一人で戦ってきたこと、世界を守る最後の戦いでがけから落ちてしまったこと。そして、神様によってこの世界に生まれ落ちたことを。


「私はもともと、違う世界の人間だったんです、その世界の人たちはみんな優しい人たちでした。だけど、アクユメたちのせいで悪い心が強くなって、人もアクユメも暴れまわって……」


「私は、それが悲しかった。だから、夢の妖精と契約をして魔法少女になったの」


「最初は大変だった、力もまともに使えなくて弱いアクユメにも負けそうだった」


「だけどいっぱい練習して、強くなってアクユメと戦って……」


「そしたらみんな、だんだん元に戻って行って、うれしかった。だから頑張れたんだよ」


「けど、最後の最後でアクユメの女王を倒したのに、崖から落ちちゃって、気づいたら神様が目の前にいたの」


「そしたら神様がこの世界に私を生れなおしてくれて、今のお父さんとお母さんの子どもになったんです」


「おかしいですよね、前世の記憶とか。そんな人、ほかにいないのに。私だっておかしいと思うんです」


「それでも以前の記憶があって、きっと夢か何かだと思ってたらここにもアクユメが出てきて、私も変身できて……」


「もう、何が何だか……」


 今まで誰にも話したことがなかったのか、麻帆ちゃんはの言葉は堰を切ったかのように止まらず、泣きそうになりながらも続いていった。そんな彼女の悲痛な叫びに、今日会ったばかりである俺でさえ心が痛くなる。こんなちいさい少女が、前世では今くらいの年齢までしか生きられなかった少女が今までずっと一人で抱え込んできたのだ。

 そんな彼女を麻女さんは優しく抱きしめた。まるで母親が子供をあやすように、優しく背をたたき、頭を撫でた。


「大丈夫よ麻帆ちゃん、もう一人で抱え込まなくてもいい。私はあなたの味方よ」


「でも、私みんなのことをだましてて。それに、お姉さんよりもほんとは年上なんです」


「そんなことないわよ、今のあなたは小学五年生、まだまだ子どもよ」


「それに、もう一人ではないみたいだしね」


 麻女さんはそういうと俺のほうを見上げた。何も言ってないが言いたいことはわかる。

 この空気であまり言いたくはないけど、頑張るしかないか。


「そうだよ、それにそういう意味じゃ俺も一緒だよ」


「一緒、ですか?」


「あぁ、俺も麻帆ちゃんと同じ、魔法使いの転生者なんだよ」


 俺の言葉に反応して、麻帆ちゃんはこちらを見上げて首を傾げた。俺はその疑問に答えるべく、嘘偽りなく真実を口にする。

 ……嘘は言っていないよ、嘘は。ただちょっとだけ言い方を変えただけで、たいして意味は変わってないし。それにほら、子どもにどういう意味って聞かれても答えられないし!!


「魔法、使い……」


「ええっと、ちょっと待って?」


 俺が話を進めようとすると、麻女さんに待ったをかけられた。いったいどうしたんだろう?


「桜童君も転生者? ってことは、あなた今何歳!?」


「……やだなぁ、僕はまだ15歳ですよ? お誕生日もまだですし」


「ちょっと誤魔化さないでよ!? ついでにしゃべり方気持ち悪いし」


 やだなー俺もまだ子どもですよー、麻帆ちゃんにはそう言ってたじゃないですかー。


「とりあえずそれは置いといて、これからのことも話し合おう」


 話逸らした…… なんてつぶやきが聞こえた気がしたけどたぶん気のせいだろう。それよりもこれからどうしていったらいいかを考えないと。


「麻帆ちゃん、さっきのアクユメ? は、まだこれからも出てくると思うかい?」


「えっと、そうですね、まだ出てくると思います」


「あー、やっぱりまだいるのか」


「はい、前の世界ではアクユメの種を蒔く悪者がいたので、もしかしたらその人たちの誰かが私たちと同じように転生しているのかもしれません」


 そうなると色々面倒だが、いったい神様はなんでそんなやつを生き返らせようとするのだろうか? まぁ今言っても仕方がないけど……


「その、桜童さん」


「どうしたの?」


 少し考え事をしていると、麻帆ちゃんが俺に声をかけてきた。いったい何だろうか?


「その、桜童さんの世界の悪者とかも、こっちに来ているんでしょうか?」


「あー、それはないな」


「えっ?」


 俺のセリフを聞いて、麻帆ちゃんが驚くような表情を浮かべる。そこらへんは面倒くさがって詳しく説明してなかったもんな。


「実は俺の前の世界って、こことたいして変わらなかったんだ。特に魔法とかもなかったし、こっちと違うのは地名とか国がちょっと違うだけだし」


「へぇー、そうなんですね」


「あれ、でも桜童さんって魔法使いなんですよね? それって……」


「さぁ、とりあえずアクユメの対策を考えよう!!」


 話がややこしくなりそうなので、強引に話題を切り替える。そろそろ時間も時間だしね。


「そ、そうですね」


「とりあえずアクユメをばらまいている奴らがいるってことだよな。とりあえずはそいつらを早めに見つけるところからかな」


「そうですね、あのアクユメも生まれたてだったみたいですし、もしかしたら活動を始めたのも最近になってからかもしれません」


「とりあえず、俺の知り合いにもこのことは伝えて警戒してもらう様に言っとくよ」


「でも、無関係の人には……」


「大丈夫だよ、彼らも転生者だし、それに俺の頼れる仲間だからね」


 逢魔も紗友も、言わなかったら逆に怒りそうだしな。それに彼らもこんな小さい子に任せてはいられないはずだ。


「すいません、ありがとうございます」


「いいよ、困ったときはお互い様だ」


「桜童さん……」


 さすがに一人で見えない敵を探すのは大変なはずだ。それにこっちには情報収集が得意そうな能力持ちがいるからな。

 ところでだれか忘れているような……


「あれ、麻女さんは?」


「あっ」


 どうやら話についていけなかったのか、麻女さんはまたたこ焼きを作る機会になっていた。ごめんよ麻女さん、あなたをのけ者にするつもりはなかったんです。

 この後麻帆ちゃんと一緒に麻女さんを必死に慰めた。


 あっ、ちなみにたこ焼きはおいしかったです。

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