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魔法使い(30歳・♂・独身)の愉快な転生ライフ  作者: 九十九五十六
第二章 魔法少女の小さな大冒険編
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第三十三話 魔法少女の運命は動き出す

 目の前で桜童さんが、無関係な人が襲われている。それも、この世界にはいないはずの存在に。

 アクユメ、夢の国において人々の悪い心を餌として生まれる悪しき存在。人の心にとりつくと、その心の中の悪い部分を強く、大きくさせて自分の体にする恐ろしい怪物。

 夢の世界では悪魔によって作られた種からしか生まれないはずなのに、なんでここにいるの!?


「大丈夫よ麻帆ちゃん、彼はああ見えて強いから」


 アクユメから私をとっさにかばってくれたお姉さんが、きっと私を心配させないようにこえをかけてくれる。けど、それじゃダメなの。彼らは魔法の力でしか倒すことはできない、現に桜童さんが何度も攻撃しているのに効いてない。

 私に、かつての力があれば……


 たとえ今望んでも、無理なものは無理だ。せめてお姉さんだけでも逃がそうにも、すでに周りは結界を張られて逃げ出せなくなっている。

 ただただ無力な自分の力に涙を流しそうになったその時、私が生まれ変わるときに出会った神様の言葉を思い出す。


「力が必要になったら、その時はこうしなさい」


 不思議な老人の姿をした神様は、私に教えてくれた。どうしても力が必要な時にどうすればいいかを……


「絶対に諦めず、最後まで強く願って……」


「麻帆ちゃん?」


 今はもう出会えない神様にお願いする。どうか私にもう一度、戦うための力をください。私はどれだけ傷ついてもいい、だけどこんなにも優しい人々が傷つくのだけは嫌だ!!


「うそっ!?」


 誰かの驚愕する声が聞こえる、だけどその声もどこか遠く感じてくる。私の叫びに応じてくれたのか、私の中からものすごい量の魔力があふれ出す。懐かしい感覚が全身を駆け巡って私に勇気を与えてくれる。これなら、桜童さんを助けることができる!


「ファーストリミット、解除!」


 魔力を編んですぐに戦闘用の姿に変える。実に十年ぶりの変身だけれども、意外と体が覚えているんだなと驚いてしまう。

 しかしそんなことを考えている暇はない、すぐにアクユメを倒さなければ!!


「私に任せて!」


 魔法で空を飛び、思いっきり魔力弾をアクユメにたたきつける。するとアクユメは吹き飛ばされえて何度も地面にたたきつけられながら地面を転がる。これくらいじゃまだやられないはずだから、相手に向かって声をかける。単純な疑問と、私の心からの叫びを。


「あなたたちがなぜこの世界にいるのか理由はわかりません」


「だけど、また罪の無い人々を傷つけようとするのであれば許しません!!」


 目の前のアクユメを睨みつけながら、ステッキを向ける。


「夢を守り、愛と希望を皆に伝える魔法少女!!」


「マジカル・マホ、ここに参上!!」


 変身後のポーズをきめて、改めて相手に向き直る。狼型のアクユメは体勢を立て直してこちらに敵意を向けてくる。

 私はお姉さんと桜童さんを庇う様に立ち位置を変えると、魔力を編んでいつでも魔法を使えるように準備する。


「これ以上は誰も傷つけさせはしません!!」


 私の声に反応してアクユメがこちらに襲い掛かってくる。私はあらかじめ用意していた。魔法を起動してアクユメに投げつける。


「グルァァァァ!!」


「クリアエフェクト・フレイムシード!」


「キャウッ!!」


 ステッキの先に火が集まると、テニスボールほどの球になって勢いよくアクユメに向かって発射されると、アクユメに当たって声を上げてのけぞった。やっぱりこのアクユメは力が弱い、まだ生まれたばかりみたい。アクユメは私を脅威と認識したのか、一定の距離を保ったまま近寄ってこない。これはチャンスだ!!


「クリアエフェクト・アクアシード!」


 水を集めていくつもの球を作り上げる。この魔法は近場に水があれば、魔力の消費を抑えていくつも球を打つことができる。街中なら下水道からいくらでも水をくみ上げることができる。

 アクユメに向かって水の球を打ち続ける。生まれたてとはいえ狼型のアクユメ、すごいスピードで動き回って逃げ回るからなかなか魔法が当たらない。けど、別にそれでいいの。


「グルル、ガァッ!」


「クリアエフェクト・ウィンググラス」


 アクユメが私に向かって距離を詰め、攻撃を加えてくる。しかし、それが狙いだ。

 水の球で相手の動きを制限して罠を設置しているところまで誘導することで、魔法を発動する。風の刃がアクユメの足元から現れて相手を切り刻む。そこよ!!


「クリアエフェクト・ロックブロッサム!」


 動けなくなったアクユメの足元から岩の花を咲かせる。突然のことに反応できなかったアクユメは、そのまま岩の花を受けて空へ舞い上がった。


「あなたの夢は、ここで終わりよ!!」


「クリアエフェクト・フレイムローズ!!」


 炎の渦が舞い上がり、宙に浮かんだアクユメを飲み込んだ。緋色の花弁が舞い散って、炎の薔薇が咲き誇る。アクユメが消える時に発する光が舞い散る。


「二人とも、大丈夫でしたか?」


 後ろを振り返ると、お姉さんと桜童さんが呆然としていた。……そうか、魔法なんてない世界で突然変身して、魔法を使っている。この世界の人々にはどれほどおかしく見えるだろうか。

 きっと私はもう普通に生きられない。けど、それでも後悔はしていない。だってこんな私に良くしてくれた二人を守れたんだから。


「ごめんなさい、実は私……」


「麻帆ちゃん、危ない!!」


 お姉さんの切迫した声が響く。その声に反応して後ろを振り向くと、アクユメが私にかみつこうと目の前に迫っていた。

 ……しまった、完全に油断していた。生まれたばかりだからと言って消えるところを確認しなかったせいで、こんな危機に陥ってしまうなんて。

 突然のことでうまく魔力を編めない。こんなことになるなんて、でもちゃんと守れたから、よかった。

 これから来るであろう攻撃に目をつぶり、体を硬直させてしまう。傷は深くなるかもしれないけれど、私なら一撃は大丈夫なはず。それに光の粒子は出始めていたから、もうアクユメも長くはない。だから、これさえ耐えきれば……












「あ、あれ?」


「よかった、間に合った」


 いつまでたっても攻撃は来ず、なぜか不思議な温かさに体が包まれる。恐る恐る目を開くと、アクユメが光の粒子になって消える瞬間が目に映った。



「ケガはなさそうだな、もう大丈夫だ」


 声のする方に顔を向けると、桜童さんの顔が近くに見えた。しかし、黒い髪は桜色にかがやき、同じく桜色に輝く四角い剣を手に持っていた。よく見ると、桜童さんは私を守るために、抱き寄せるようにして庇ってくれていた。

 ……なるほど、だから温かかったのかとのんきに考えていると、だんだん今の現状に頭が追い付いてきた。


「あー、実は俺も……」


「きゃぁぁぁぁ!!」


「えっ、なんでぇぇぇぇ!?」


 生まれて初めてお父さん以外の男の人に抱きしめられて、思わず大声をあげてしまった。桜童さんはびっくりしたのかアワアワし始めて、お姉さんはそれを見て大笑いしている。いろいろ大変なことになっているのに、この時の私はそれどころではなかった。

 でも、これはきっと始まりで、私の人生の変わった瞬間だった。


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