第二十九話 それは物語の終わりと始まり
新章突入です。
……夢を見た。
とても懐かしくて、悲しくて、ほんの少し暖かい。そんな夢。
車に揺られてウトウトしていたのかもしれない。昔から車に乗るといつも眠くなる。お母さんに話すとまだまだ子どもねって笑うし、お父さんは将来車を運転するとき大変だぞって言う。そんなあるかもわからない未来の話をされても困る。車は高速道路を降りて国道を走っていた。見覚えのない景色を眺めながら、私は不思議な現状について考える。
私はもう一つの世界を知っている。それも、この世界とは全然違うところだった。
私はその世界を守るために一人で戦ってきた。しかし、最後の最後で力を使い果たして崖から落ちて死んでしまったのだ。最後の瞬間はあまり覚えていない。ただ、恐怖で目をつぶったときに、顔も知らない母のぬくもりを感じた気がした。だからその時の事は思い出したくないような、覚えていたいような、そんな複雑な気持ちになる。
「あら、もう起きたの? まだ時間あるからもうちょっと寝ててもいいわよ」
「もう大丈夫、それにずっと寝てたら夜に寝れなくなっちゃうよ」
「ふふっ、それもそうよね。それじゃあ何か音楽かけちゃおっか」
そう言うと母は携帯を操作して音楽をかけ始めた。よくわからないけど、ぶるーとぅーすと言うものらしい。美しいクラシックの音色に耳を傾けながら、今のことを考える。私はかつて、家族というものを知らなかった。だから正直、今の両親ともどう接していいかもわからない。お母さんたちは自分たちが共働きで忙しいからだって思っているけど、そうではない。お母さんたちからは十分愛情を感じているし、よくしてもらってる。ただ、私がどうしたらいいかわからないだけなんだ。
「ごめんね麻帆、ゴールデンウィークなのに一緒にいてあげられなくて」
「大丈夫だよお母さん、お仕事だから仕方ないもん」
「でもね、あのくそ上司にさんざん文句言って夏はお休みいっぱいもらってきたから!! お父さんも頑張ってくれてるから夏休みは期待しててよね!!」
「うん、楽しみにしている」
そんな事を話しているウチに目的地に着いた。今日からしばらくここにお世話になる。
「こんにちは、久しぶりね南。突然ごめんね」
「久しぶり姉さん、事情はわかっているから大丈夫だよ」
車を降りるとお母さんは女の人と挨拶を始めた。たぶんこの人が叔母さんなんだと思う。背が高くてスタイル良くてとっても綺麗なお姉さん。少し懐かしい感じがして顔を見つめていると、橙色の髪の毛がさらさらと風になびいて、思わず見とれてしまっていた。
「こんにちは麻帆ちゃん、私麻女 南よ。小さいときにあったんだけど覚えているかな?」
叔母さんがかがんで目線を合わせてくる。その目は優しくて不思議な気持ちになる。懐かしさは少し感じるが、小さい頃は私も混乱していてあまり覚えていない。だから正直に首を振ると、叔母さんは少し悲しそうに眉を細めた。
「そう、まぁ麻帆ちゃんがまだよちよち歩きの頃だったから仕方が無いかな。今日からしばらくの間よろしくね」
「……よろしくお願いします」
叔母さんに握手を求められたので手を握る。このゴールデンウィークの間、私はここでお世話になる。
私、鐘城 麻帆、11歳。普通とはちょっと違った女の子。このお休みが私の人生を変える冒険になるなんて、このとき私は考えてもいなかった。