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魔法使い(30歳・♂・独身)の愉快な転生ライフ  作者: 九十九五十六
第一章 第二の高校生活と第二の転生者!?編
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第二十四話 童帝と影

 日が傾き、夕焼けに染まる教室。気がつけば俺は誰もいない教室の真ん中の席に座っていた……


「えっ? なんで俺はこんなところに……」


 おかしいな、なんで俺はこんなところにいるんだ? 確か俺は今日最後の授業が終わって紗友に話しかけようとしたら、なぜか紗友が逃げて、追っかけようとしたら…… あれ? そっから思い出せないぞ?


「やぁ、やっとお目覚めかい? 遅すぎるから危うく王子様のキスで起こすところだったよ」


「誰だ!?」


 突然の出来事に呆然としていると、後ろからかうかのような声が聞こえてきた。さっきまで誰もいないと思っていたので、驚いて後ろを振り向くと、黒い影が見えた。よく見てみるとそれは人の形をしていた。夜のような真っ黒な髪はもいう少しで肩までかかりそうなほど長く、女性でも嫉妬してしまいそうな白く美しい肌は夕焼けで少し朱色に染まっている。その人影はさっきまで腕を組んで後ろの黒板にもたれかかっていたが、振り向いた俺に気がついたのか顔を上げて軽く挨拶でもするかのように右手を軽く上げた。


「ひどいな君は、僕はこれでも君のことを友人だと思っていたんだがね」


 わざとらしく肩を竦まながら人型が夕日の陰に隠れた顔を上げる、最初に目が行くのはその赤い瞳だ。だが真っ赤なルビーを埋め込んだかのような赤い瞳はどこか違和感を感じさせ、その整った顔立ちは何故か言い知れぬ違和感を感じさせられた。まるで実態を見ていないかのような感覚であり、人ではない何かと対面しているかのような奇妙な感覚だ。


「……俺だってそう思っているさ、逢魔。だけどお前は一体何をしているんだ? もう誰もいないし、お前は部活なんてやっていないはずだ」


「ふふっ、君はいけずだな、本当はもうわかっているんだろう?」


 ……やはり、俺の予想は間違っていなかったらしい。不自然に人のいない校舎に二人きり、先日の忠告、彼の口ぶり、これはもはや確定だろう……


「やっぱり、お前が『魔王』だったんだな」


「ご名答」


 逢魔はそう言って満足そうに頷いくと、こちらに歩み寄ってきた。


「そう、僕こそが『魔王』だ。これはその証、君と同じ王の資格を持つ者だ」


 そう言って逢魔は上着を少し捲って俺に見せつけてきた、その綺麗な腹部には紫色の紋章が描かれていた。中央の魔道書を囲むように描かれている三日月の両端には、その二つをつなげるように王の証である冠の紋章が描かれている。そしてその周囲には四つの悪魔の羽根のようなものが描かれている。その紋章は見るものを圧倒させ、王たる威厳を遺憾なく発揮していた。これこそが『魔王』の紋章、魔族の王たるものの魂の姿であった……


「流石だよ桜童 善次郎。いや、ここは『童帝』と呼んだほうがいいかな?」


「!?」


 やつがいつものように話しかけてくるが、その言葉には王の重圧がのしかかっていた。これが俺と同じだっていうのか? こっちのほうが圧倒的に強そうだぞ!? って、今思ったらなぜその名前を!? そしてその称号で俺を呼ぶな!! それよりもその称号は紗友にしか教えていないはずだぞ、一体どこで…… はっ!! もしやこいつ紗友の部屋に盗聴器をつけていたんじゃ、重度のシスコンのこいつだしその可能性は十分にある。となると知り合いから犯罪者が出るわけか、悲しいな……


「……これから辛いことがあっても、諦めずに頑張れよ!! 俺も応援するから!!」


「一体君は今の長い沈黙のあいだに何を考えていたんだ!?」


 なんだよ、せっかく人がお前のこれからを案じて慰めの言葉とともに軽蔑の眼差しで見下してやっているというのに……


「言っておくが僕がそのことについて知っているのはあの結界に僕の使い魔を送り込んでいたからだ!! 断じて君が思っているようなことではない!!」


 あぁ、あの時か…… ってことはやっぱりこいつがあのゴーレムを俺に仕向けてきたのか。おそらくあれは俺を殺すつもりでやってきたんだろうが、あの時失敗したから今度は直々に俺を屠りに来たってところか? でもそのつもりなら俺が寝ているところを襲えばいいだけだ、一体何を考えている……?


「その顔は、僕が一体何を考えているって顔だね?」


「なんだよお前、超能力者かよ?」


「君の顔に出ていただけさ、それに今時はその表現は正しくないよ、もう本物が出てきちゃったんだから」


「確かにそれもそうだな、それよりもその質問に答えてはくれないかねぇ?」


「そんなに焦らなくてもいいよ、ちゃんと話すからさ……」


 するとお馬の顔つきは真剣なものとなり、場の空気が変わった。おそらくこれから始まる話は相当重要な話なのだろう、軽く深呼吸をして覚悟を決める。たとえ、これから戦うことになっても……


「……最初に謝っておくよ、あれは僕の勘違いだったんだ。許してくれとは言わない、だがこの話だけはしなくてはいけないと思っていたんだ」


「……えっ?」


 あまりに衝撃の事実に、思わす間抜けな声が出た。あのゴーレム襲撃事件は勘違いだった? もしそれが本当ならさすがの俺でも我慢はできないが、どうやら事情があるらしい。口から出そうになる罵声を飲み込んで、逢魔に話の続きを促す。


「そもそも僕は最初に魔力を持つ君のことを疑っていたんだ」


 それは紗友もそう言っていた、やっぱり双子だからか? 魂まで双子というわけではないが……


「実は僕たちの家系は少なからず魔力を保有している現代では珍しい家系なんだ」


「……ちょっと待ってくれ、それじゃあ昔は魔力を持っている人間がよくいたかのような言い方じゃないか!!」


「うん、いいところに気がついたね。実はこの世界にも魔術という概念は陰に隠れながらもあったんだよ、昔も、今も……」


「……」


 それは衝撃の事実だった。つまり逢魔の話が本当なら、魔術を使えるのは俺たち転生者だけじゃないってことになる。そう考えるとなにか組織もあるかもしれないし、あの魔術があると主張していた国も真実を言っている可能性だってある。でも、そういう人間がたまにいるんだったらそこまで警戒しなくてもいいんじゃないのか?


「話を続けるとね、もちろん今も魔術は絶えずに影でひっそりと活動しているんだ。そしてもちろん彼ら相手に商売をする人間もいる」


「……そいつらは、何を売っているんだ?」


「魔術に必要な礼装に魔道具作成に不可欠な霊的な品物、それにほかの魔術師の情報、そして…… 魔力を持つ人間だよ」


「!? それってもしかして……」


 この世界の魔術師相手に商売をする人間、その商人たちが扱う商品、そして源仙家の家系、それはつまり、そういう事なんだろう。


「そう、おそらく君が思っているとおりだろう。一度紗友は奴らにさらわれている」


「!?」


 今日何度知ったかわからない衝撃の事実になかなか頭が追いつかない。正直言って紗友が捕まるところなんて想像もつかないが、幼い頃の彼女ならそれも無理はないだろう。それに相手は一般人ではなく魔術師相手に商売をしている人間だ、何を使ってくるかなんて想像もできない。なるほど、そういうことなら俺を疑っていたのも納得できる。だからといって確認も取らずに遠距離から止めをさそうだなんてどうかしていると思うがな。


「……お前が俺を襲った理由はわかった、だけどもう少し穏便に済ませる方法もあったと思うんだけど?」


「それについても反省している、でも正直君の腕を見て敵でないというのがわかれば、ゴーレムは止めるつもりだったんだ。でも、あの場所に思いにもよらない乱入者が現れた」


「……紗友か」


 あの場所での予想外の乱入者、それは彼女以外はいない。そういえば途中からあのゴーレムは紗友のことばかりをねらっていたな、それも何か理由があるのだろうか?


「もともと僕の作り出した魔物たちは、勇者を足止めするためのものだった。だから最優先事項は勇者に対する敵対行動だった、それがまだ生きていてゴーレムは暴走し、途中から君ではなく紗友を襲っていたんだ」


「なら、ゴーレムを止めればよかったじゃないか」


「力の落ちた僕に暴走したゴーレムを止めることはできなかった、これは僕の落ち度だ。それに僕は紗友が『勇者』であることを知らなかった、いや、知らないふりをしていただけなのかもしれない……」


「逢魔……」


 そう言って赤い目を伏せる彼は、その目尻にうっすらと涙を貯めていた。きっと、いや絶対にこいつは紗友と戦いたくないはずだ。なら紗友に真実を話し、説得するしか……


「だから、時間稼ぎはここまでだよ」


「えっ? ぐおっ!?」


 その時、突然俺の横に現れた紫色の魔法陣から、爆発が起こった。激しい熱風と強い衝撃に体を叩きつけられ、体が宙に浮く。それと同時に窓ガラスの割れる音がして、体が浮遊感に包まれる。そしてしばらくあとにもう一度大きな衝撃とともに、体が転げまわる。おそらく爆発のせいで外に放り出されたのだろう、痛む体に鞭を打って体を起こして目を開ける。桜の花びらのようなものが目に入り、それの後を目で追っていると、自分の異変に気づいた。


(いつの間に換装していたんだ……?)


「くっ、換装による自動防御機能か!!」


「それよりも、どういうつもりだ逢魔!!」


 少し落ち着いたので周りを見渡すと、どうやらここはグラウンドのようだ。周りには少し地面より浮いて教室から出てくる逢魔と、俺を囲むようにそびえ立つ三体の土のゴーレムが立っていた。このゴーレムが前回と同じなら、状況は絶望的だな……


「僕が『魔王』で、君があの『勇者』の主である。ほかに戦う理由が必要かい?」


「そんなの戦う必要にならないだよ!! それに時間稼ぎってどういう意味だ!!」


「そのまんまの意味だよ、『魔王』と『勇者』の戦いに邪魔者が入らないようにするためさ」


 なんでこうなったんだ? こいつは戦いたくなんてないはずなのに、戦う理由なんてないはずなのに……


「なんでって顔をしているね、君には特別に教えてあげるよ。僕は彼女の愛する兄であるが、それ以前に『魔王』である。僕たちの争う運命は、誰にも変えられない……」


 ふざけるな、何が運命だ。そんなもののためにお前らの関係は終わるのかよ、あんなに幸せそうだったじゃないか。それなのに、『勇者』と『魔王』だからっていう理由で、争わなくちゃいけないのかよ!!


「今僕の本体は彼女と一緒に結界に閉じ込められている、この結界は戦いに決着がつくまで解けない。出来ればもう諦めてくれ、そうすれば僕たちも手荒な真似はしないし、君の傷の治療もしよう。流石に逢魔のシャドウである僕と、三体のゴーレムを相手にするのは君でも無理だろう?」


「……そうか、わかったよ」


 ……でも、なんとなくわかっていた。だから俺も、もう自分が何をするかも決めていた。


「そうか、わかってくれたんだ「いいや違う」……なに?」


 やつの言葉を遮ってやると、やつは露骨に嫌そうな顔をした。そんなに俺が断ったことに驚いてんのか? でもその人を見下したような顔も、すぐに歪ませてやる。


「お前ら倒して、馬鹿な兄弟喧嘩を止めればいいんだな!!」


 桜桃矛盾剣を取り出して、一気にシャドウと間合いを詰める。こいつらなんて即効で潰して、すぐに紗友のところに駆けつける。だって俺は……







 ……桜童 善次郎であり、仲間を守る『童帝』なのだから。

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