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魔法使い(30歳・♂・独身)の愉快な転生ライフ  作者: 九十九五十六
第一章 第二の高校生活と第二の転生者!?編
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第二十一話 童帝は答えを探した

 教室での騒動のあと、俺は教室の恐ろしい程目の血走った男子たちに休み時間中ずっと追い掛け回されていた。あれは恐怖だった、なんせどこまで逃げてもゾンビのように這いよって来たからな。なんとか休み時間まで逃げ切ったとおもったら、授業が終わっては俺を追いかけてくるのエンドレス状態だった。そんなこんなで本日の授業が終わり、四葉に頼んでもう帰ったという偽情報を流してもらった。今はしばらく隠れてから教室に隠してもらった荷物を取りに行っているところだ。


「……もう誰もいないよね~?」


「悪いが、ここにいるぞ」


「ぎょへっ!? ……ってなんだ逢魔か」


 びっくりして声がした方に振り向く、そこにいたのは黒い髪に、手に持つ本を読んでいるせいで顔が隠れているがそれでも溢れ出るイケメンの香りがする男、源仙(げんせん) 逢魔(おうま)だった。誰もいないと思っていた教室で放った独り言に返事か来たから思わず変な声が出ちまったじゃねぇか!! ……まぁあの追いかけてきた男共じゃなく、あの場所にいなかったこいつでよかった。大丈夫だよね? コイツ何も知らないよね?


「よう、こんなところで奇遇だな?」


「ここは僕たちの教室だしそこまで珍しいわけじゃないだろう? まぁ今日はこうして話すのは初めてだが、それに何でそんなに動揺しているんだ?」


 何か色々見透かされている感があるですけど!? なにこいつ超能力者? それはともかく、やっぱりあのことは知らないみたいだな。よかった、とりあえず大丈夫そうだな。


「そんなことないって、それよりなに読んでるんだ?」


「あぁ、『働け魔王様』という本と呼んでいるんだ」


「へぇ、それって最近人気のライトノベルじゃないか!! お前もそういうの読むんだな」


 それは純粋に驚いた、だっていかにもインテリっぽい逢魔がライトノベルを読んでるんだぜ? そりゃあびっくりもするだろう。それに俺も読んでいるだから、またコイツと話すネタが増えたわけで。


「そんなに驚くことかな? 読んでみたら面白いものだよ?」


「いや、俺も読んでるからびっくりしてさ。また新たに共通点が増えたなって」


 この発言をした瞬間、何故か身震いをした。なぜだろうか、どこかでやつが高笑いをしている気がする……


「……ねぇ、いま何故か身の危険を感じなかった?」


「……わるい、俺もだ」


 やっぱり気のせいじゃないらしい。あぁ早乙女さん、なんて恐ろしい人なんだ……


「それより、ほかにどんなやつ読んでるんだ?」


「そうだね、SFロボットとかも好きだけど、やっぱり一番は王道ファンタジーかな」


「へぇ、そういえばこの作品も王道じゃないけどファンタジーだよな」


 正直言うとこいつとここまで話が合うとは思わなかった、中学時代は話が会うのはあのリア充くらいだったからな。といっても俺、中身もう46歳なんだけどな……


「僕はね、不思議に思うんだ」


「んっ?」


 そんな感じでちょっと感傷に浸っていると、逢魔が突然そんなことを言い始めた。


「どうしたんだよ、急に」


「いや、ずっと気になっていたんだ。なぜこの世界の人間は、この世にないものを想像して創作できるのかと。魔法なんてこの世にない、ロボットなんてこの世にない、それなのになんでそんなことを考えついたんだろうって。そう考えると、人の可能性を感じるんだ」


 逢魔は淡々と、そんなことを言い始めた。でもそれは俺に向けてではなく、どこか独り言のようだった。


「それでも、やっぱり人の考えることは一緒で、悪人はいつまでたっても悪人なんだよ。桜童 善次郎、君は物語の悪人が本当に悪人だと思うかい? 魔王はいつまでたっても魔王で、勇者に討たれるだけの存在なのかって」


 なんだか雲行きが怪しくなってきた、逢魔は何を言いたいんだ? 正直言ってここから逃げ出したくなってきた、これ以上聞いたらいけない、これ以上は聞きたくないと思えてきた。それでも逢魔は止まらず、淡々と話し続ける。


「でも、なんで向こう側の事情を知ろうともしないで、一方的に悪だと決めつけたりするんだろうって。彼らがどんな思いで戦っているのか、なんでそれを理解しようとしないのかって。結局これも運命なんじゃないのかって、思うようになってきたんだ……」


 そう語る逢魔の表情は少し悲しそうで、なんだかさみしそうだった。


「それでも、僕はこの世界の可能性にかけてみたいんだ。もしかしたら、違う運命の可能性だって有りあるから。ほら、最近は魔王だって悪い奴ばっかりじゃないし、勇者にだって悪い奴はいる。そう考えたら、僕らの運命だって違ったかもしれないじゃないか……」


 まるで自分に言い聞かせるような逢魔のひとりごと、教室には彼の声だけが響いていた。


「桜童、君ならどうする? 運命を変えるか、はたまた運命に従うか、それとも……」


 逢魔がこちらに向かって語りかける。でも俺は、その今にも壊れそうな儚い表情を見て何もいうことができなかった。何と言わずとも、流さずとも、彼の紅色の瞳を見ていると、彼が泣いているように見えた。しばらく沈黙が続く、カチカチと時計の秒針が進む音だけが聞こえる。この沈黙を破ったのは逢魔の方だった。


「ごめんね、僕が一方的に話しちゃって。ちょっと疲れてるのかな? ちょっと先に帰らせてもらうよ」


「お、おう、気にすんなよ。それよりお前って……」


「あっ、そうだ。言い忘れていたことがあった」


 急いで立ち上がって帰る準備をしていた逢魔は、俺の話を聞かずに話し始めた。まるで俺に質問されるのを恐れているように、彼はわざわざ俺のセリフにかぶせて発言した。もう既に帰る準備は出来ているようで、カバンを肩に下げて俺の方に振り返った。


「君はいつか必ず選択する時が来るだろう。運命に従うか、運命を変えようとするか、その時君は、どっちを選ぶんだろうね?」


 そういうと逢魔は俺に背を向けて、気が付けば俺の目の前から消えていた。あいつが何を聞きたかったのかなんてわからない、あいつがどんなつもりであんなことを言ったのかなんてわからない。今の俺には、あいつの質問の意味も、答えもわからなかった。それよりも、俺は俺の頭はあるひとつのことで埋め尽くされていた。それは……


「お前が魔王だったのか? 源仙 逢魔……」


 そのことを口にして、背筋が凍った。そんなことはない、そう思っても頭からその答えが離れない。それだけはダメだ、だってそれが本当なら、紗友(イモウト)逢魔(アニ)と戦わなくてはいけなくなってしまう。それだけはダメだ、あっちゃいけない事なんだ。そう考えると、もしかしたら奴はこのことを言っていたのかもしれない。そんな考えができてしまう時点で、ちょっと疲れているんじゃないのかと錯覚してしまう。


「俺は、どうすればいいんだよ……」


 もちろんその問いに答えてくれる人なんていなく、ただ時計の秒針の進む音だけが聞こえた。するとガタっと音がして、音の原因の方に振り向く。そこにいたのは雪のように白い肌と髪、そして赤い目の少女。彼女は見つかったことに怯えているのかふるふると震えており、それがウザギのような印象を受けた。


「何やってんだよ淡雪?」


「す、すいません!! 桜童さんの後ろ姿が見えたんで、今日はお話してなかったなぁと思ったんで一緒に帰りません勝って誘おうと思ったんですけど……」


「それで、聞いてたのか。別に入ってきても良かったのに……」


「いえ、でも二人の仲を邪魔するのも悪いと思ったのです……」


「? どういうことだ?」


「えっ? だって二人は、その…… 禁断のお付き合いをしているんですよね?」


「はぁ? ……はぁ!?」


 それを聞いて真っ先に思い浮かんだのは、あの地味な見た目に反して超アグレッシブな少女、早乙女さんだった。おいあの人何この純真無垢な淡雪に吹き込んでんだよぉぉぉぉ!?


「えっ、違うんですか?」


「違うよ、全然違うよ!! 俺にそっちの趣味は無いからね? ほんとだから信じて!!」


 違うって否定すればするほど信じてもらえなくなる、これってよくあることだよね? 淡雪の目が疑いから温かい目に変わった。本当に違うから、本気で違うからね!!


「まぁ、冗談はここまでにしておくです」


「ほっ、よかった…… ていうか、お前でも冗談とか言うんだな……」


「はい、桜童さんはいじりやすいのでつい…… ちなみにこんなふうに冗談を言ったの、王道さんが初めてです!!」


「そうかい、そいつは良かったよ……」


 なんでみんな俺のこといじってくるんだろうな? みんなしてひどくないか? 俺の方が精神年齢は高いはずなのに……


 それにしても、何か淡雪と話しているとさっきまで悩んでいたことがバカらしくなってきた。


「もう、悩みは吹き飛んだんですか?」


「あぁ、それはもうバッチリと」


 どうやら俺は、淡雪に気を使わせてしまったようだ。なんだか申し訳ない……


「そうだ、一緒に帰らないか? 帰りにちょっと喫茶店でもよってさ」


「ふふっ、なんだかドラマとかで有りそうなナンパみたいですよ?」


「そうか? それじゃあお姫様、ご一緒いただけますか?」


「今度は似合わないです」


「ははっ、手厳しいな」


 意外とコイツも冗談を言う、そしてその掛け合いが少し楽しかった。なんていうか、今回は淡雪に救われた気がするな。なんていうか、心のオアシスみたいな?


「桜童さんは、悩む必要なんてないんですよ。だって最初から、答えは出ているんですよね?」


「そうだな、答えなんてとっくに出てたんだ」


 そう、俺は転生した時からしっかりと決めていたんだ。俺の答えを……


「ありがとう淡雪、お礼に帰りに好きなものおごってやるよ」


「いいんですよ、これくらい。悩める人を救うのも、私の仕事ですから……」


 ここで拒否されたのは、正直意外だった。だって前の食いっぷりを見れば、彼女が大食いキャラなのは一目瞭然だと感じたからだ。それにしても仕事か…… もしかして、淡雪ってシスターなのか? 


「さて、それじゃあヤケ食いに付き合ってくれるか?」


「それくらいなら付き合ってあげるですよ、桜童さん」


 とりあえずこれからのことなんて後で考えよう、今はとにかくヤケ食いだ!! 四葉にロッカーに隠してもらったカバンを取り出し、淡雪と一緒に教室を出る。目指すは『Pumpkin Magic』、やけ食いついでに店長に愚痴聞いてもらおう。

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