第十八話 童帝は勇者の秘密を知った
やっと更新~
それにしてもサブタイトルって付けるの難しい……
結界が解かれ、街に人々が戻った今、俺は源仙を背負いながら歩いていた。意外と体は柔らかくて軽く、女の子特有のいい香りがほのかに香ってくる。俺の首に手を回して抱きつく彼女は少し震えていた、先ほどの戦闘による恐怖か、あるいは一般人であると思っていた俺を巻き込んでしまった罪悪感か、それは分からないが背中で震えている彼女はどこか儚く、か弱い存在に見えた。しばらくは人気のない道を源仙の指示に従い目的地に向かっている(俺はどこか知らないし、知らされていない)。流石に気まずいので何か話題を作ろうと頑張って考えていると、後ろから申し訳なさそうな声が聞こえた。
「こんなことに巻き込んでしまって本当にすまない。だけど信じて欲しい、私はこんなことに巻き込むつもりはなかったし、こんなことになるとは思ってもみなかったんだ……」
「そんなことはわかってるよ」
「……えっ?」
そんなことは今のこいつを見れば分かる、正直いってコイツはそういう騙すようなことは嫌いそうだし、それにゴーレムは俺よりこいつのことを狙っていた。それだけでとりあえずさっきのゴーレムの味方でない事は確かだろう、それに俺のことを気遣ってくれるような奴だ。俺の勘だけど、コイツはいいやつだろう。初対面の印象は最悪だったが……
「それより体の方は大丈夫か?さっき急に倒れてきたからビックリしたぞ」
「あぁ、それはな……」
実はさっきからこいつを背負ってるのにはワケがある。先程路地裏から出ようとした時に、源仙がいきなり倒れ掛かってきたんだ。その時ちょうど向かい合うようになっていたから地面に倒れずに済んだが、体に力が入らないようで仕方なくおぶってきたのだ。ちなみにちょっと背中がさみしい、絶対口には出さないけど。
「そ、そのだな……笑うなよ?」
「笑わねーよ、それに笑い事じゃねえだろ」
「そうか、そうだよな。実はな……馴れない回復魔術の使いすぎで、魔力を使いすぎて倒れてしまったんだ」
「……はぁ」
「なんだそのため息は!?」
なんというか、呆れてものが言えない。立つのもやっとだったほど足を痛めていたのに平然と歩いていた理由はわかった、しかしそれはないだろう……
「あのなぁ、戦うために怪我直したのにそれが原因で倒れるとか本末転倒じゃないか!!」
「し、しかしだな!! 君が魔術を使えることは分かっていたが、あんなゴーレムと一人で戦うなんて言い出すんだぞ?あのままでは危ないと思って焦ってたんだ、仕方ないだろう……」
……おおう、そんないきなりシュンとなられたら困るだろう。このまま萌え死んでしまいそうだ!! ……とまあ冗談はここまでにして、まぁ確かに俺が逆の立場だったらそうしてたかもしれないな。だけど流石にそこまで馬鹿じゃないぞ?
「はぁ、まぁそれは俺も悪かったよ。それより目的地はまだなのかよ?」
「あぁ、それならもうすぐ……あっ、あそこだ!!」
源仙が指差した先にあったのは、和風の一軒家だ。黒い瓦の屋根に綺麗な庭、そして源仙と書かれた表札。って源仙!? もしかしてコイツの家か!?
「済まないがそろそろ降ろしてくれ、母上に勘違いされると面倒なのでな」
「……俺の予想が正しければ、もう手遅れだけどな」
その場で立ち止まって右手で源仙を支え、左手で目の前にある家の玄関にいる女性を指差す。満面の笑みで、目をキラキラさせている女性は、おそらく源仙の母なんだろう、というかそうでなければおかしい。後ろでまるで壊れたブリキの玩具のようなギギギっという音が聞こえた気がした。
「なん……だと……」
あっ、やっぱりこの子ちゃんねらーだろ。あるいは週刊少年飛躍読者だな。
「あらあらまあまあ!! 紗友ちゃんたら男の子にオンブしてもらってるなんて、随分と仲がいいのねぇ。もしかして彼氏さん? ってことは今朝書いてた手紙はやっぱりそういうことで、成功したのね!!」
「なんでそのことを知ってる!? って、違うぞ母上!! これはだな……」
「わかってるわよ、それよりこんなところで立ち話もなんだし早く入って入って!!」
「おわっと、ちょっと押さないでくださいよ!!」
「わわっ!!」
源仙のお母さんはこっちに来ていきなり俺の背中(正確には源仙を)押して無理やり家の中に押し込んできた!! なんだこの人、源仙が見つかりたくないって言ってた理由が会って数秒でわかったわ!! とりあえず源仙をおろして靴を脱ぐ、そしてそのまま源仙のお母さんに居間まで案内された。それにしても何から何まで和風だな、障子とか、庭もだし、それに居間は畳張りの和室にちゃぶ台って、一体いつの時代だよ……
「それにしても紗友ちゃんが家に男の子を連れてくるなんて思いもしなかったわ!!さあさあ、いろいろお話を聞かせて頂戴!!」
「あっ、あのだな母上。出来れば席を外して欲しいのだが……」
「!? ……そうよね、お母さんに黙って家に男の子を連れ込むってことはそういうことよね。娘の成長は素直に嬉しいけど、お母さん少し寂しいわ……」
「……あの、お母さん? 何か勘違いしてませんか?」
「まぁお義母さんだなんて、気が早いわ!!」
この人メンドクセー!! 何いやんいやんってやってんですか!? それに今絶対漢字が違ってただろ!!
「あの、母上……」
「そういえば夕飯の材料が切れてたわ!! ちょっと三時間くらい帰ってこないから!!」
「なんですかその具体的な数字は!? 言っておきますけどあなたが思っているような事は一切起こりませんよ!!」
「それじゃああとは若いふたりに任せて……」
そう言って勢いよく源仙のお母さんは家から出ていった。なんだったんだよ、まるで嵐のような人だったな。そしてその嵐はこの場の空気を乱すだけ乱して言って残していったのは嵐のあとの静けさだけだった。また沈黙が痛いよ!! なぜか知らんが俺と源仙はちゃぶ台を挟んで二人共正座で向かいあっている。やはり気まずい、とりあえず何か話を切り出そうと口をひこうとしたら、先に源仙が口を開いた。
「その、あんな母ですまなかった……」
「いや、気にすんなって。その……個性的なお母さんですね」
「だから見られたくなかったんだ~!!」
そう言ってグテ~とちゃぶ台に突っ伏す源仙、苦労してんだな……
「でもよ、そんなんだったらここでなくても良かったんじゃないのか?」
「むっ、しかしあまり人に聞かれたくはない話なのだ……」
「だったらここじゃなくても……」
「いや、ここで十分なのだ。ちょっとついてきてくれ」
「? わかった」
正座を崩して立ち上がり、源仙について廊下を歩く。少し足がしびれて歩き方がおかしくなっているが、源仙は慣れているのか普通に歩いていた。玄関の方まで戻って、そこから階段を上って二階へ行く。そしてそのまま廊下の一番奥にあるほかとは趣の違う頑丈そうな扉の前に来た。
「えっと、何ここ……?」
「私の部屋だ、さぁ入ってくれ」
そう言って扉が開かれる、するとそこに広がっていたのは、女の子どころか今時の高校生にあるまじい奇妙な部屋の光景だった。なぜかサンドバッグが天井から吊り下げられており、壁にはクナイや手裏剣などが飾られて、果てには刀が(模造刀だよね? そうだよね!?)飾られている。部屋は全体的に真っ白で、ほかにあるとしたらベッド、勉強机、そして漫画や武術書などが収められた本棚くらいだ。
「な、なんじゃこりゃ……」
「ここなら防音だし、基本的に家族が入ってくることもないので安心だ」
よく窓を見れば二重になっていた、なんでこんなことしてんだよ……
「私が夜も修行をしたいと言ったら父が喜んでしてくれた」
「なんで俺の心を読んでんだよ!?」
「顔に書いてあるぞ、それにたいてい部屋に友を呼んだら同じ質問をされるのでな」
「……はぁ、さいでっか。それよりもお前に友達とかいたんだな」
「ひどい言い方だな、まぁいい、それよりも本題に入ろう」
そう言ってベッドに腰掛ける彼女の顔は、少し影があるように見えた。やはりこれまでのことを気にしているのだろうか?とりあえずすぐそこにあった勉強机の椅子に座って源仙の方を向く。
「実は本題の前にはなさなければいけないことがある」
「? なんだよ、その話って?」
「……まずはこれを見て欲しい」
その震えた声は、どこか緊張した感じが含まれていた。彼女は俺に背を向け、ベッドの上で制服の上着を脱ぎ始めた……っておい!?
「何やってんだよ!? 早く服着ろって!!」
「いいから見ていろ、目を逸らすな」
「無理だって!! お前今の状況わかってんのか!?」
誰もいない家の女の子の部屋にふたりっきり、しかも女子高生と男子校生(しかし、前世合わせたら46歳)だぞ!? どう考えても襲ってくださいって言ってるようなもんだろ!? ……そんな度胸無いけどな!! とまぁ、そんなこと言いながら目を隠している手の指の間からチラチラと見てしまうのは男の性というものだろう? シュルリシュルリと肌と布の擦れる音が聞こえ、源仙の上半身が白いサラシだけになった。そしてそのサラシに手をかけて……
「……」
「……やはり、驚かないんだな」
「まあ、なんとなくわかってたんだけどさ。やっぱりお前、転生者だったんだな」
「……あぁ」
源仙の背中、正確には背に描かれたその紋章を見つめる。橙色の太陽の真ん中に剣の形の空白があり、上下左右の頂点から針のように細長い三角が飛び出て、特に一番下が一番長く剣のようになっている。そしてその四方には短剣の形の模様が柄の部分が中心に向くように描かれている。俺の紋章とは違うが、その形式は確かに俺の紋章と同じところがある。それに今までの言動、さらに魔法やいきなり現れた木刀などから察するにそうなんじゃないだろうかと思っていたが、今回のことで確信した。
「それにその紋章、今までの言動から察するに、本当に勇者だったのか」
「あぁ、お前の言うとおり、私は勇者の称号を異世界の神から賜った者だ」
源仙が右手で胸を抑えながらこちらを向く、その目は少し潤んでおり、思わずドキっとしてしまった。そんな源仙に見とれていると、いきなり源仙が頭を勢いよく下げてきた、っていうか土下座してきたってえぇ!? ちょっとやめて!! ふたりっきりの部屋で上半身裸の女子に土下座されてる男子ってただの変態じゃないか!? ってか犯罪臭がプンプンするよ!!
「今までの無礼、本当に申し訳なかった!! こんなことで許されるとは思っていない、だがこれが私の精一杯の謝罪だ。どうかそれだけは信じて欲しい!!」
「ちょっと待って早くそれをやめてくれこんなところを誰かに見られたら俺が世間的に死んでしまう!!」
「しかし……」
「しかしも何もない!! もう怒ってないからってかこのままだと俺が逆に謝らなきゃいけなくなるから本当に申し訳なく思うなら早くやめて服を着てくれ!!」
「そっ、そこまで言うなら……」
すると源仙は俺の剣幕に少し引きながら後ろを向いて、いそいそと服を着だした。というか顔が赤い、恥ずかしいなら最初からしないでくれ、心臓に悪い。源仙は服を着終えると、恥ずかしそうに顔を赤めながらこちらを向いてひとつ咳払いをした。
「まぁ、それでだな。あんなことを言っておいて虫がいいと思うだろうが、本題に入りたい」
「もうそんなこと思わねーから早く言ってくれ、疲れたぞ……」
今思えばこの前はあのゴーレムと戦っていたんだ、相当疲れているっていうのにコイツの家に来てから俺の精神がマッハで削られていく。
「そうか、実は君に頼みがあるんだ。私と一緒に魔王を倒すために協力して欲しい」
「……」
やっぱりそうきたか、コイツの今までの発言からこれもなんとなく想像できた。
「だけどなんでそこまで魔王に執着するんだ?正直本当にいるとは限らないだろ?」
「……そういえば、私の過去は話してなかったな。少し長いが、聞いて欲しい」
「あぁ、わかった」
それから聞いたことは、想像以上に激しく、悲しい過去だった。村のこと、幼馴染のこと、魔族のこと、仲間たちのこと、そして魔王との戦いのこと……
「……これが、私の過去だ。そしてこれが私が魔王に執着するわけでもあるってどうした頭を抱えて?」
「……いや、ちょっと待ってくれ。色々びっくりだけと、ひとつだけ言いたいことがあるんだがいいか?」
「なんだ?なんでも聞いてくれ」
「そうか、それじゃあ……」
コイツの話はわかった、だけどツッコミどころが多々ある。この世界とは根本的に違ったゲームみたいなファンタジーな世界だってことや、本当に勇者だってことにはもちろん驚いた。だけどそれより一番驚いたことは……
「お前男だったのかよ!?」
「元、がつくけどな」
それが一番の驚きどころだ、だってこんなに可愛い子が元男なんだぜ? そんなのおかしいだろ!?
「まぁ、確かに元は男だった。だけど今は源仙 紗友という一人の女だと認識している。本当は男の方が良かったがそこは運がなかったと諦めている」
そういってふっと笑う源仙の顔はすこし哀愁が漂っていた。もう何がなんだかわからん、ってか俺ももしかしたら女になっていたかもしれなかったのかよ!? あぶねーなあのじいさん!!
「……そ、それより、もしかしてあのゴーレムは魔王の手先なのか?」
「おそらくはな……それで、協力はしてくれるのか?」
そういって不安そうな目でこちらを見つめてくる、そんな目をしなくてももう俺の心は決まってるよ。
「もちろん協力するさ」
「そうだよな、あんなことをしておいて協力してくれなんて都合が良すぎるよな……って正気か貴様!?」
「失礼なやつだな、お前みたいな美少女が協力してくれって頼んでいるんだ。俺が断るわけないだろ?」
「しかし君には全く関係のないことだぞ? 本当にいいのか?」
「関係ならあるさ、もう巻き込まれてるしな。それに、借りたものはちゃんと返す主義だっていったろ?」
そう言ってキメ顔をすると、源仙はぽかーんとした顔をしていた。……あれ? もしかして滑った? 決まったと思ったんだけどな……
「全く、君はお人好しというかなんというか」
「そうか? でもかっこよかっただろ?」
「あのキメ顔か? あれはもう人前でやるべきではないぞ」
「なにげにさらっとひどいこと言わないでくれ!! 心にグサグサと刺さるわ!?」
なにこいつドSなの? さっきから楽しそうに頬を緩ませてるんですけど!? ……まぁ、さっきより場の雰囲気が明るくなったからいいのかな?
「それより、なんで協力が必要なんだ? お前ほどのやつなら一人で十分なんじゃないのか?」
「あぁそれはな、見ての通り私は全盛期と比べたら随分と弱体化している。それは相手も同じだろうが私は女であるから前衛職としては筋力がなくて不利なんだ。本来なら魔術でその差を埋めるんだが、私にはあまりその才能がないんだ。果てにはまだ第一リミットも完全に開放できていない、今使えるのは多少の強化系などの魔術と不完全に開いた第一リミット『|勇ましき者は常に最善を尽くす《アイテムボックス》』だけだ」
あぁ、あの突然現れた木刀はその力だったのか。使いようによってはすごいけど、あんまり戦闘向けって感じじゃないもんな。ってか、あんだけの強さで何言ってんの? それにあの状態で不安を覚えるってその魔王どんだけ強いんだよ!?
「それで、あのゴーレムを倒した俺に頼んだのか」
「ああ、まさかあそこまで強い魔物を出せるとは思わなかった。本当は君に謝ってこれ以上このことには関与させないつもりだった。だが、やつが本格的に動いた今、君に頼るしかなかったんだ」
「それは良かったよ……」
まぁ、そんな奴にコイツが一人でやりあうなんて俺はゴメンだし、それにこの力を使ってみたいっていう思いもある。そう考えればギブアンドテイクだな、前世では危ないことなんていっぱいあったし。脳筋バカとタイマンしたり、実験バカの実験に付き合わされたり、オタクバカと一緒にオタク狩りにあったり、色男とBL疑惑が出たときはやつの親衛隊に一日中追い掛け回されたし、そいつら5人で警察とドッグファイトしたり。全部逃げ切ったけどな、つまり危険になっても源仙連れて逃げれる自信はある。多分大丈夫だろ、今日みたいな結界使われなければ。
「そういえば、あの結界みたいなのはそうぽんぽんと使えるものなのか?」
「いや、あれはちゃんと用意をしないと使えない。それに仮想世界を維持するために多大の魔力を必要とする、逆に言えばそれを使えるくらいには魔王も力を取り戻していると思っていいだろう」
「それは面倒だな……」
何か方法がないかを考える、俺の魔法で源仙をブーストするにしてもまだ慣れていない上に時間がかかる。二人で切りかかるにしてもまたあのゴーレムみたいなやつを出されると厄介だ。そうするとあれしかないか……
「源仙、お前は魔王を倒すためならなんでもできるか?」
「私の決意を甘く見てもらっては困る、何かいい手があるのか?」
「あぁ、ひとつ方法を見つけた。どれほどの効果があるかわからないが、ないよりはマシくらいに思ってくれ」
「なんだもったいぶって、早くその方法を言ってくれ」
「あぁ、俺の第一リミットは『童帝王の絶対魔法』といって俺と契約したものを次元を超えて召喚することができる魔法だ」
「……? それで強力な眷属でも召喚するのか? しかしあの時出てきたような奴では正直いって足手纏いだぞ」
うっ、痛いところを付いてきやがる。違うんだしょうがないだろ、俺だって好きであんな奴を召喚したんじゃないんだ。って本題はそこじゃない!!
「最後まで話を聞いてくれ、この魔法にはもう一つ効果がある。それは召喚相手を強化することができるんだ、つまり……」
「なるほど、私と契約しろということか……」
「まぁ、そういうところだ」
正直嫌なら嫌って言ってくれてもいい、契約って言っても得体がしれないし、どこにいても召喚できる、つまりいつ召喚されるかわからないんだ。だけどコイツは多分何言っても聞かないんだろうな……
「それで、契約するにはどうすればいいんだ?」
「あぁ、それは体液を交換すればいいんだよ。簡単だろ?」
「……はぁ!?」
……?何か驚くようなところあったか?確かに血の交換なんて嫌な奴もいるだろうけど、俺はそこまで嫌じゃないし、でも自分で血を出すっていうのは怖いな……
「そっその、ほかに方法はないのか?」
「あるかもしれないけど、俺は知らないな」
なんでこいつこんなに顔を赤くしてるんだ? さっきのことでも思い出したか、それとも熱か?
「ううぅ……それじゃあ、体液ならなんでもいいのか?」
「? ああ、別にいいぞ」
何を言ってるんだこいつ?なんか胸に手を当てて深呼吸し始めるし、とりあえず今のうちに契約の準備でもしておくか。
「よっと」
「なんでいきなり私の横に座るんだ貴様は!?」
「なにって契約の準備だよ、ほら」
俺と源仙が入るように魔法陣を展開して指を指す、すると源仙は顔を赤くさせて納得した。とりあえず魔法陣の上に全身が入るようにベッドの上に正座して源仙と向かい合う、すると源仙がびくっと肩を震わせた。本当に同士なんだよこいつ? 今度は顔を俯きだすし……
「それじゃあ始めるぞ」
「待ってくれ、まだ心の準備が……」
「なんだよ、心の準備をするほどでもないだろ?」
「むっ、そうだが……しかし……ええい、こうなったらヤケだ!!」
源仙は俯いていた顔を勢いよく上げると、俺の頬を両手で包んで目を見つめてきた。その目は涙で潤んでいて、さらには俺の方が背が高いせいで上目遣いになっている。そのせいでまたしてもドキッと来てしまい、顔を背けようとしたが頬に当てられた両手のせいで顔を背けることができない。って何この状況!? 女の子特有のいい香りがするし、吐息がかかるほど顔近いし、それになんかこいつ何かを決心した目をしてるし!!
「暴れるなよ、暴れるな」
「この状況で暴れるなって方が無理だって!!」
「それでは、参る!!」
「何をだよ!! んっ……!?」
えっ、何どうなってんの? なんか今源仙の顔がむっちゃ近くにあるんだけど? ってか、俺の口の中を何かが蹂躙してんですけど!? 何これもしかしてアレなのか、アレなのか?
「んっ……ぷはっ!! はぁはぁ、これで、どうだ……?」
「これでどうだじゃねぇよ!? 何してんだよお前、貞操概念ってもんはないのか?もうちょっと自分を大切にしろよ!!」
「やれっと、言ったのは、お前だろ? それに、最初はもっと、すごいことを要求してきたくせに……」
「何それ俺が強要したみたいな言い方ってえっ……?」
今コイツなんて言った? もしかしてあれか? 体液交換を別の意味で捉えたのか? っていうか今思ったら普通そっちの意味で捉えるじゃないか俺のバカ!!てかやべぇよ今のお前の格好、さっき暴れたせいでちょっと服はだけているし息も荒くて頬も少し赤くなってる、正直言っちゃ攻めぬ兵士にとってこれは毒すぎる!!
「体液交換って血でいいんだよ!! もうちょっと落ち着いてくれよ!!」
「そんな、初めてだったのに……」
「そこで本気で涙目にならないでお願い!! 確かにちゃんと説明しなかった俺が悪かったからお願い!!」
このままだと無理やり襲った最低男みたいじゃないか!!このままだと世間的にやばい、ってか俺の良心がやばい!!
「ぐすっ……そ、それより、ちゃんと契約は出来たのか……?」
「あっ、ああ、多分な……」
とりあえず言われるままに契約を確認する、『童帝王の絶対魔法』を発動させて源仙を召喚しようとする。すると源仙の目の前に魔法陣が現れた、どうやらこの上に立つことによって召喚されるらしい。
「よかった、これで契約できていなかったら私は部屋に引き篭っていたかもしれない」
「やめて本当に、それ以上いけない!!」
このままだと俺の心のライフポイントが0通り越してマイナス行っちゃうから!!
「まぁ、その……すまんかった」
「……ぐすっ」
そのまま、何とも言えない時間が流れた。何を話すわけでもなく、ただ向かい合っているだけ。源仙ももう泣き止んではいるが、何かを話せるような空気ではない。時計の秒針が進む音と、人二人分の呼吸音だけが少し広めのこの部屋に響く。普段は聞こえないような音が何故か聞こえる、それに心臓の音がバクバクと行っている、源仙に聞こえにないかと心配してしまうくらいに。源仙の方は、頬を朱に染めて目をそらしている、いくら男から女になったからと、嫌だからこそかさっきのことはショックだったようだ。この沈黙に耐え切れず何かを話そうと必死に話題を探すが、考えれば考えるほど頭の中がこんがらがって混沌の中に導かれていく。俺ってもしかして初デートで失敗するような奴じゃね?
「……あっ、もうこんな時間か」
気がつけば、源仙のお母さんが家を出てから三時間が経とうとしていた。そろそろ家に帰ってくることだろう、悪いがそろそろ退散させてもらおう。
「悪い、俺そろそろ帰るわ」
源仙のお母さんに会いたくないっていうのもあるが、一番の理由はこの重苦しい空気から早く抜け出したかったってところだ。痺れた足が治るのを待ってから立ち上がって部屋の扉を開けると、突然後ろから声をかけられた。
「……責任はとってもらうからな」
その恐ろしい言葉に全力で聞こえなかったふりをして部屋から出ていく、そのまま階段を急ぎ足で降りて玄関から出ると、目の前に源仙のお母さんがいた。終わった……
「あっ、おじゃましました~」
善次郎は逃げ出した
「あら、ちょっと待って」
しかし回り込まれてしまった
「えっと、なんですか?」
「ちょっとお話していきましょ?」
「……はい」
結局こうなったか、目の前の源仙のお母さんをよく見てみる。あの源仙を生んだだけあって相当美人だ、しかしあのクールな見た目の源仙と違って包容力のありそうな、まるで聖母なイメージだ。
「今日はありがとうね。あの子、友達少ないから……」
意外だ、実はちゃんと娘のことを心配しているようだ。それにこの言い方からして、勘違いはしてないのかな?
「あの子ちょっと変なところあるでしょ? でも根はいい子だから虐められたりはしないけどあんまり友達とか家に読んだことなかったから心配だったけど、今日はちょっと安心したわ」
「そうですか……」
「それで、うちの紗友はどうだった? あの子見た目はいいけど中身があんなんだからそういううわついた話なかったし、今がチャンスよ!!」
「いきなりなにいってんですか!?」
訂正、やっぱりこの人勘違いしたまんまだわ
「ほら、狙った獲物は逃がさないっていうのがうちの家訓でしょ? そういえばあなたの名前はまだ聞いてなかったわね? 私は源仙 瑞樹よ、あなたは?」
「……桜童 善次郎です、紗友さんとは同じクラスの学友です」
「ふふふっ、あなたが桜童くんね。紗友ったら最近良くあなたのことを話すのよ? それにもう下の名前で呼び合う仲みたいだし、心配はいらないわ」
……なんていうか、娘のことを心配しているのか、からかっているのか、それとも天然なのか、わからない人だなあ。
「それと桜童くん、あなたから紗友の匂いがするわ」
「……えっ?」
「仲がいいのはいいけど、紗友を泣かせたらダメよ? もし泣かせたら……」
ぞわりと、悪寒が走った。殺す、まるでそう言外に行っているように聞こえたのだ。あまりにも恐ろしすぎる殺気、それがさっきまでほんわかとしていた人物から発せられたと気づくのには時間がかかった。何なんだ今のは? 恐ろしすぎる……
「そういえばもう帰るんじゃなかったの?」
「……あっ、はい。それじゃあお邪魔しました」
「えぇ、またいらっしゃ~い」
気がつけばいつもの調子に戻っていた、さっきのは気のせいだったのか? しかしそれではさっきの殺気は説明がつかない。一体あの人は何なんだ? 源仙家がただ単に特別なのか、それとも……
(いや、まさかそんなわけないよな……)
出来ればこの予感はあたって欲しくない。そう思いながら俺は源仙家をあとにして、家に帰るのであった……
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