第十七話 童帝はジャイアントキリングした
桜色のローブをはためかせ、対峙するは灰色の歪なゴーレム。今この場所には俺の足音と奴の岩と岩の擦れ合う音だけが鳴り響いている。動き出したのは同時だった、身体能力強化魔法を展開してゴーレムに接近し、相手は拳を握って振り下ろす。しかし換装のおかげかさっきよりも魔法の効果が上がっていて、軽々と避けることができた。それじゃあ、取り合えず反撃と行きますか!!
「行くぞデカブツ、さっきの借りを返してやるよ!!」
腰を落として剣を構える。力を抜いてリラックスし、足を踏み出すとともに一気に力を入れる。すると爆発的に加速し、一瞬でゴーレムに迫る。
「桜童流初めの一太刀、寄り添い」
まずはゴーレムの懐を通り過ぎ、すれ違いざまに足の腱の部分を切りつける。すると奴の足に傷が付いた、どうやら切れ味も申し分ないようだ。
「まだまだいくぞ!!」
続いて攻撃しようとしたその瞬間、ゴーレムは振り向きざまに右手で裏拳をしてきた。それを慌てて上に避ける、そして空中に魔法陣を固形化して足場にする。なるほどこういう使い方もあるのか、これは戦略が広がりそうだ……
「さっきまでの威勢はどうした!!」
ちなみに意味もなく挑発しているわけじゃないからな?こうした方がテンション上がるからな!!今度はゴーレムの周りに魔法陣を展開させては固定化し、それを足場にして三次元的に動き回りながら切り刻んでいく。やつも三次元的な移動についていけないのかなかなか狙いが定まらず、徐々にその体に傷が目立ってきた。
「さて、そろそろ決めさせてもらうぞ!!」
いくら傷をつけても頭にある核を潰さない限りコイツは止まらない、動きが鈍くなってきている今なら!!って思ってた俺がバカだったよ……
ほとんど動かなくなったゴーレムはちょこまかと避けながら攻撃してくる俺に業を煮やしたのか、両手を大きく振り上げて、魔力を乗せて地面に叩きつけた。地面は蜘蛛の巣上にひび割れ、破片が弾丸のように飛び散って頬をかすめた。魔法によりやつを中心に衝撃波が発生し、吹き飛ばされる。空中でなんとか体制を立て直し、地面に足をつけると同時に剣を地面に突き立てて減速する。
「あっぶねー!!一体なんなんだよそれは!?危なすぎるだろーが!!」
やつに向かって悪態をつくが、そんなことなんて眼中にないゴーレムは周りの魔法陣になんて目もくれずにこっちに向かってくる。しかしそうは問屋が下ろさない。
「これでも喰らえ、全力の『肥えた大地』!!」
魔法名の宣言とともにやつの周りに展開していた『肥えた大地』の魔法陣に魔力が流れる。すると魔法陣が桜色に光り輝き、一斉に発動した。激しい爆音とともにゴーレムの体が粉塵となり、その砂煙によってゴーレムの巨体が隠れる。
「やったか?……ってしまったこれはフラグ!?」
しまったと思ったときにはもう遅い、砂煙はその中心となったものが巻き起こした突風により遥か彼方へと吹き飛び、中から傷だらけのゴーレムが姿を現した。その周りはゴーレムが修復をしようとしているのか少しずつめくれてその体にひっついていくが、傷が大きすぎるせいかその速さは遅い。やっぱりやるならこの瞬間しかない!!俺の目の前に立つゴーレムは、声帯がないが故の声なき咆哮をしてこちらに突っ込んでくる。それにたいして俺は、今度こそやつを仕留めるために剣を構える。
「おらぁぁぁぁ!!」
剣と拳がぶつかり、ギャリギャリと岩が削れる音が鳴り響く。ゴーレムの拳に先程までの威力はなく、さらに魔法で俺の力をブーストしているおかげか難なく受け止めることができた。そのままゴーレムの拳を弾くと、ゴーレムの拳には大きな傷跡が出来ていた。そしてゴーレムはまた声なき咆哮を発し、今度は両手で連続で殴りかかってきた。嵐のような連撃を手に持つ剣でいなし、逆に傷をつけていく。今のこいつに恐ることはない、左手の攻撃を避け右に避ける。
「桜童流初めの七太刀、浮き橋」
ゴーレムの腕の上を飛び、回転しながら縦に切り裂く。するとバターのように腕が切れ落ち、またバランスを失いそうになったゴーレムが倒れようとしたがなんとかもう片方の手を地面について持ちこたえた。
「何をやっている!?このままだとさっきの二の舞だぞ!!」
「大丈夫だ、そこはちゃんと手を打っている」
「なにを……!?」
源仙が驚いたもの無理はないだろう、なんて言ったってゴーレムの腕の断面に綺麗に魔法陣がひっついているんだがらな。これなら再生能力を持つゴーレムでも再生できない!!……はず。
「やばい、もう体制を立て直してきたぞ!!」
「わかってる!!」
気がつくとゴーレムは地面についた手を離し、フラフラと立ち上がっていた。しかし満足に動けそうもない、というか立っているだけで限界のようだ。だから俺は次の一撃で決めるため、ゆっくりと歩きながらゴーレムの方に向かう。ゴーレムは俺の存在に気がついたのかこちらを向いてゆっくり歩みを始めた。しかしそれに先程までの圧倒的な存在感はなく、まるで老いて死を待つ獣のようだった。故に恐る心配はなく、やつより少し離れたところに立ち止まり、時を待つ。やつがあと一歩踏み出したその時、俺の間合いに入る。
「お前はもう終わりだ、だから最後に冥土の土産を見せてやる」
その大きな足が上がり、一歩踏み出す。間合いだ、これから今出せる全てを奴にぶつける。
「桜童流終の三太刀――」
その時、爽やかな風が吹き……
「――菊一文字」
桜の花びらが散った
「す、すごい……」
すべてが終わり、まるで時が止まったかのような静けさが残った。まるで時代劇のようにきったあとの剣を振るうと、どこからかそんな声が聞こえた。すると思い出したかのように後ろから轟音が響く。後ろにいたゴーレムは、その立っていた地面や空とともに綺麗に縦に切断されていた。
「大丈夫か、源仙?」
「あぁ、私は大丈夫だ」
源仙のもとへ駆け寄り、周りに展開していた魔法陣を消し去る。すると源仙は立ち上がり、こちらを睨んできた。
「一般人が無茶をするんじゃない!!」
「お前が言うな」
「あいたっ!!」
取り合えず文句を言ってきたので軽くチョップをしてみた、すると源仙は可愛らしい声を上げてちょっと涙目になった。なにこれ可愛い、お持ち帰りしてもいいかな?
「何をするんだ!?」
「自分の胸に手を当てて考えてみろ」
「……?何もないぞ?」
「ここでそんな自虐すんなよ!?」
しかもコテンと首をかしげるし、コイツは天然なのか!?そんなこんなでちょっとした漫才をしていると、今度は大きな音が聞こえた。
「なっ、今度は何だ!?」
「これは世界の修復が始まったようだな、人がいない方に行くぞ、結界が解ける」
「はぁ?なんだよそれ?」
「説明は後でする、取り合えずこっちに来い!!」
「うわっ!?ちょっと待てって!!」
手を掴んで引っ張る源仙に必死についていく、今思えば女の子と手をつなぐなんていう機会は、今まで滅多になかったかもしれない。相手がこいつでなければ素直に喜べたのに……
「全く、早くしろ。いきなり目の前に人が出てきたら怪しまれるだろう!!」
「わかったって、っておわ!?」
あぶね!?いきなり空から糞が落ちてきやがった!!間一髪で避けて上を見てみると、カラスがカーと鳴いて電柱に立っていた。なんだよ今日は厄日か?
「ところでこれは何なんだよ?三行でまとめてくれ」
「人払い、結界、終わったら全て元通り」
「マジでまとめやがった!?」
まさかコイツもちゃんねらーなのか!?……いや、今までの行動からして天然な気がしてきた。それにしてもご都合主義な結界だな、それでもいいけどさ。源仙に手を引かれ路地裏に入ると、あままで俺たち以外に人がいなかった世界に、喧騒が戻った。
「カァー」
次回、たぶん説明回