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魔法使い(30歳・♂・独身)の愉快な転生ライフ  作者: 九十九五十六
第一章 第二の高校生活と第二の転生者!?編
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第十五話 勇者の夢と勘違い


取り合えずなんとか一週間間に合ってよかった……

 転生してから俺は後悔し、同時にあの神を恨んだ。おぉ神よ、なぜ俺を女にした!!俺、いや今は私か……が生まれた家は普通の一般家庭だ。そこに私は双子の兄と一緒に生まれ、新たな名をもらった、源仙(げんせん) 紗友(さゆ)という名だ。ちなみにうちの父と母にもう少し女の子らしくするべきだと言われて、一人称は私に変えさせられた。


 生まれて最初の方は動くこともできず、暇だったが赤子の体では意識があまり保てないので感覚的にすぐに大きくなった。ついでにこちらの言葉も赤子の頃に覚えた。ちゃんと歩けるようになってからは父に護身術を教えられた、鍛錬をしたかった私にとって渡りに船だったが体が思うように動かず最初の方は苦労した。それから暫くして剣を握らせてもらえるようになった、といっても木刀だが。それでも私にとってはこちらでの始めても相棒で、これは今でも使い続ける宝物となった。


 私より早く文字を覚えた兄は、よく私に絵本を読んでくれた。私にとっては赤の他人のようでも、兄にとって私は可愛い妹、そう考えると少し申し訳なく思ってしまう。そんな兄が読んでくれた本で印象に残っているのは勇者が魔王を倒すという本だった。しかし魔術ではなく科学というものが発展したこちらにも勇者と魔王や魔術の存在が物語の中とはいえいることにも驚いたが、それよりも驚いたのが私の家族にはわずかながら魔力が存在しているということだ。とはいえ父も母も魔術師に関しては何も知らないらしく、一般的にもそういった力を持つ人はいないらしい。


 鍛錬を始めてからは体力をつけるために外で遊ぶことも多くなった、そこでよく近くの公園なのに行くことが多かったが、そこにはいわゆるガキ大将と呼ばれる生意気なやつがいた。そしてそいつの近くには泣いている少女がいる、おそらく大切なものを取られたのだろう、ガキ大将の手にはクマのぬいぐるみがあった。その光景が何故か幼馴染と被り、気が付いたらそのガキ大将を殴っていた。それから喧嘩になったが、例え力で負けていても今までの経験からこちらが圧勝した。だが相手が泣いて許しを請うても殴ろうとしたその時に、後ろから誰かが抱きついてきた。


「もうやめてよ!!」


 抱きついてきたのは先程泣いていた少女だった、おそらく私が暴れたせいでボロボロになったくまを手に持ち、目に涙を貯めて叫んだ。きっと優しい子なのだろう、先程とは違う理由で泣いている。その目は恐怖に怯えながら先程自分をいじめていた人間を必死に助けようとしている。その目はまるであの頃の幼馴染のようで、どこか違っていた。それを見て私は呆然としているとガキ大将は転げながら逃げ出したが、代わりに一人の少年が走って来た。


「てめぇ何泣かせてんだよ!!」


 そういって私を突き飛ばし、少女の前に両手を広げて守ろうとする少年は、昔の俺と幼馴染の関係に見えた。今思えばもう彼女には会えない、例え魔王を倒しても、もう一度蘇っても会えない。きっとあの時の表情は俺を恐れていたんだろう、ならなんでそれに気づかなかったのだろうか?なんでもっと彼女を大切にしなかったんだろうか?なぜ彼女ともっと話して、元の関係に戻ろうとしなかったのだろうか?


「うぅ、ひっくっ……うわぁぁぁぁん!!」


 そう考えると涙が出てきた、なぜだろう。例え魔物の攻撃を受けても、魔族の呪いに苦しんでも、仲間が倒れても、勇者がそんなことではダメだと必死にこらえ続けた涙が流れ続け、決壊したダムのように溢れ出して止まらなかった。


「な、何で泣くんだよ!?そんなにさっきのが痛かったのか?」


 この二人が羨ましかった、昔の自分を見ているようで。少年は自分のせいで泣かせてしまったと思っているのか泣いている私を前にオロオロしている、しかし私はそれを無視して泣き続けた。いつも子供らしく振る舞えなかった私は、この時だけ子供に戻って泣き続けた。すると今度は私の泣き声を聞いてきたのか兄がやってきた。


「おいお前、僕の妹を泣かせたな!!」


「い、いや、コイツが先にやってきたから……」


「違うよ、この子は私を助けてくれたんだよ!!」


「えっ、まじ……?」


 なんだかよくわからないけど、こちらに話しかけてきたので頷く。するといきなり少年は飛び上がり、空中で三回転して着地と同時に土下座をした、見事だった。


「すまない!!コイツが泣いているから助けなきゃって思ってたから、ろくに確認もせずに突き飛ばしちゃって、本当にごめん!!」


「ちょっと何やってるの!?色々と大丈夫!?」


「貴様ソレ如きで許されると思ってるのか!?せめて4回転はしないと許してもらえると思うなよ!!」


「ええぇ!?」


「問題そこかよ!?」





「……フフッ」


 くだらないところで論争する兄と少年、その横で事態についていけずオロオロする少女。なんだか彼らを見ていると思わず笑みが溢れる。


「違うぞ兄上、これは私が勝手に泣いていただけだ。ふふふっ、でもいいものを見させてもらった、ありがとう」


 涙を拭きながら二人に向かって笑いかけると、二人は少し驚いたようだがすぐに笑顔になった。すると少年が無言でハンカチを差し出してくれたので遠慮なく使わせてもらう。


「やっと笑ったか、やっぱり女の子は笑顔が一番だよな」


 少年に笑顔で言われたその言葉に、思わずドキっとしてしまった。おそらく顔も赤くなっているだろう。


「……貴様、今僕の妹を誑かそうとしたな?」


「へっ?なんのことですか?」


「ダメだよこんなことしちゃ、後でみんなでお仕置きだからね?」


「それはいいな、是非とも僕も参加させて欲しい」


「もちろんいいよ」


「あのー、拒否権とかあります?」


「「ない」」


「……ですよね~」


 なんというか、ここまで楽しんだのは前世も含めて久しぶりかもしれない。ここに居るみんなに感謝している、兄は私を本気で心配してくれたし、少女は優しさを、少年は誰かを守ることを教えてくれた。きっと、幸せとは今のようなことをいうのだろう。ならば私は、復讐のためでなく、この幸せのために戦おう。


「そういえば少年、名前はなんていうんだ?」


「ん?俺の名前?」


 そういえば聞いてなかったので名前を聞いた、もしかしたらまた会えるかもしれないというちょっとした期待を込めて。


「名乗る程のものじゃない、強いて言うならチェリーマンと呼んでくれ!!」


「くくっ、チェリーマンか、覚えておこう」


 今の私にはそれだけで十分だった、そしたらいつかまた会える気がしたからだ。


「それではさらば」


「またね~って待ってまだ話の続きが!!」


「なっ!?待ちやがれ!!」


「……ふふふっ」


 逃げたチェリーマンを追っていく少女と兄を見つめる。……あの礼儀正しい兄が汚い言葉を使っている、それだけで笑ってしまう。きっとこの出会いはいい方向に私を変えてくれたのだろう、これでまた一つ彼らに感謝することが増えた。


「待ってくれ、私も参加する!!」


 彼らに向かって走る、体が軽い。今まで心の中に溜まっていた泥が全て取り除かれたようだ、それが嬉しくてつい本気で走ってしまうと、ついついこけてしまった。するとみんながこちらに振り返って走り寄ってきた。


「さぁ、一緒に走ろうぜ!!」


 差し出された手を握り立ち上がる、そしてみんなでただただ走り続けた。この時私は、こちらで初めての友ができた。










「……夢か」


 随分と懐かしい夢を見た、初めての友とのたった一つの思い出を。


「それにしてもなんでこんな時に?」


 せっかく魔王と思わしき人物を見つけ、長きに渡る戦いに終止符を打つというこの時に。その人物と出会ったのは高校に入学してすぐ、クラスに入ってきた奴はナンパをしている男子高校生にシャイニングウィザードを決めた時だった。この時私は驚いた、その中に秘めた莫大な魔力と、魔術でブーストして攻撃力を上げていたことに。この時はまだ怪しんでいただけだったが、身体測定の時に確信した。やつの胸にあるのは転生者の証である称号の紋章、その中心にある王冠のマークは王である証拠だ。これはあの神に確認したから間違いない。昨日は変な人間を出してきたから思わず戦略的撤退をしたが、今思えばそれ以外の魔術はほとんど使っていなかった。


「うん?なにか引っかかるような……」


 そこで違和感を感じる、今思えばなぜあそこで強力な魔物ではなく人間を出したのだろうか?いや、普通の人間ではなかったが……それに今思えばやつの魔術の演唱もおかしかったような


「……まてよ、そういえば」


 奴の魔術の演唱を思い出してみよう……


――童よ来たれ、我は汝を導く(おう)なりや――


「……あ、あぁぁぁぁ!!」


 なぜ気づかなかった!?魔王ならここで魔性の王やらなんやら言うはず、ということはまさかの王違い!?ままま、まずいぞ。まさか勘違いだったなんて、それに今思ったら私すごい痛い奴じゃん!!何魔王って?知らない人からしたら無茶苦茶痛い子じゃないか!!


「は、恥ずかしい……」


 と、取り合えず今日話してみよう。それで精一杯謝罪すればたぶん大丈夫なはず……だよね?


 取り合えず面と向かって話すのは難しそうだから手紙を書こう。そうと決まればすぐに書こう、確か友達に男の子に手紙を書くときはこれを使えって言ってたな。よし、学校に間に合うように早く書かなくては!!




 その時私は気づかなかった、扉の隙間から母が温かい目で見守っていることに……

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