第十四話 それはかつての勇者の記録
サブタイトルからわかるようにとある登場人物の回想です、文字ばっかなので読むのがめんどくさくなるかもしれませんがご了承ください。
かつてレティと言う小さな村があった。みんなそこまで裕福な生活ではなかったけど、笑顔に満ち溢れて幸せそうだった。この村はクラトリエ王国と言う国と魔界と呼ばれる瘴気に満ち、その瘴気を好む魔族が住む魔境との境界線近くにあるが、比較的平和だった。魔族は瘴気のあるところからわざわざ出てこないし、魔物もたまに境界線近くに出るだけで危険ではなかった。俺はそんな村で母と優しい村の人たちと共に幸せに暮らしていた。……そう、あの日が来るまでは。
俺はいつもどおりに朝の水汲みに近くの森に出かけたんだ、魔界の近くだからか動物はあまりいないけど、静かでいい場所だった。魔界の近くだけどここの川の水は意外と綺麗で、余所者は気味悪がってこないけど村の人たちはよくここを使ってる。なんでもここは女神さまの祝福のかかった湖が上の方にあるらしく、ここ以外には飲める水があるところがないんだそうだ。
水汲みを終えると今度は日課の剣の練習を始める、昔偉大な騎士だった親父に憧れて始めた剣術も、今では下級の魔物くらいなら楽勝で倒せるようになった。俺はこの剣を振っている時が好きだった、なんせこの時は何も考えずに済むし、それに少しづつ親父に近づいていっている気がするからだ。けどこの時ばかりはそれがアダとなったらしい、少し休憩しようと苔むした切り株に座ると幼馴染が慌てた様子で走ってきた。……曰く、村が魔族に襲われているらしい。
それを聞いた俺は急いで村に向かったが、もうその時には全てが手遅れだった。紅蓮の炎に焼かれた村は阿鼻叫喚に包まれ、地獄絵図と化していた。優しかったおばさんは炎に包まれ、笑顔が素敵で自衛団長との結婚が決まってたお姉さんは貼り付けにされた彼の足元で冷たくなっている。村長の家は破壊し尽くされ、長年母と一緒に過ごしてきた我が家は灼熱の炎に包まれていた。
俺は急いで水の魔法を自分にかけて自分の家の中に飛び込んだが、既に母は亡き父の形見を抱いて静かに眠っていた、その背に大きな爪痕を残して。そしてそこにいたのはひとりの人間、いや人間というにはその姿は異形だった。2mはあろう身長に禍々しい角、背中には刺々しい羽が生えており肌は青い。そして凄まじい魔力を持った存在、魔族。その鋭い爪は血に濡れ、この惨劇を誰が起こしたかを物語っていた。
……その時、俺の中で何かがブチギレた。
気がつけば血の海の真ん中に立っていた。目の前には魔族だったものが散らばっている、きっと俺がやったんだろう、今でも手に感触が残っている。近くには恐怖に怯え腰を抜かしている幼馴染がいる、俺は彼女を安心させようと笑顔で手をさし伸ばしたが、何故か彼女は余計に怯えて後ずさる。なぜ?その問に誰も答えてはくれず、騎士団が俺たちを迎えに来るまでその場に立ち尽くした。
そのあと俺は王都へ王様に会いに行った、なんでも魔界の王がいきなりこちらに侵略行為をはじめ、俺たちの村はその餌食となった。そして俺には聖剣を持つ資格が有り、俺は神のお告げにより勇者に選ばれたらしい。俺はそれを聞いてすぐに承諾した、村のみんなの、そしてたったひとりの肉親の仇を討つために。だけどこちらも無償でやるわけではない、だからこちらも条件を出した。村の生き残りたちの生活が安定するまでの衣食住の提供だ、といっても生き残りは俺と幼馴染くらいだ。ちなみにあれから幼馴染とはろくに喋ってない、きっと村を魔族に襲われてしまったからだと思う。だからこそ俺は彼女の笑顔を取り戻すために戦う、そのためなら魔界の全てを敵に回す。
俺は騎士団長と神殿の巫女様と宮廷魔術師とともに魔界へ向かった、それからは厳しい旅だった。瘴気のおかげで安心して空気を吸うこともできない、魔物の闊歩するこの場所ではぐっすりと眠ることもできない。そんな状態で魔王の住む魔王城へと向かう、それはとても過酷だった。顔が見えないようにローブを被り、身分を偽って魔族の街に寝泊りすることもあった。俺達には魔王退治の他に任された任務がある、それは瘴気の発生地である場所を封印するという任務だ。なんでもこのままでは瘴気がこちらの人間界にまで侵蝕し、危ないそうだ。こうして魔王城に向かいながら瘴気の発生源である危険なダンジョンに向かう日々が始まる。
時には仲間が人さらいにあった、時には人間であることがバレて街のみんなと戦闘になった、時には魔王軍が現れて戦闘になった。時には奴隷の少女を救い、彼女とともに旅をし、魔族に壊滅された盗賊団の下っ端を拾い、成り行きで仲間にしたり、いろいろあった。そして魔界の街を転々とするうちにこちらの事情もわかってしまった、瘴気で枯れる作物、水の汚染、そして魔族でも抗えない病。彼らがこちら側に進行した理由もわかる、だがそれでこちらの人々を殺していいわけではない。しかし彼らも苦しんでいる、その事実が俺の心を苦しめる。それがいけなかったのだろう、戦闘中にそのことを考えてしまい、隙が生まれた。殺される、そう思ったが体がうまく動かない。しかし凶刃が自分に振り下ろされたと同時に俺の体は吹き飛ばされた、驚いて押された方向を見てみると、元奴隷の少女が切られていた。だけどその顔は穏やかで、俺のことを救えたことを誇りに思っているようだった。俺はすぐにその魔族を切り捨て彼女の下に向かったがもう手遅れだった。それから俺は、彼女の死を無駄にしないためにもう迷わないことを決めた。
それから様々なダンジョンに向かい攻略し、魔王軍の幹部と戦い勝利し、強くなった。そしてついには魔王城へとたどり着いた、敵の軍勢は先鋭5000、対する勇者勢は5。圧倒的な物量差でも勇者たちは誰ひとりとして諦めなかった。しかし敵も本気だ、一人、また一人と倒れていく。魔王を残して最後まで残ったのは俺と巫女様だ、だけどその巫女様も最後の力を振り絞って俺を完全に回復して倒れた。そして俺は魔王を倒すために扉を開いた。
魔王との戦いで力尽きた俺は不思議な空間にいた。そこは真っ白な空間で全身が心地よい浮遊感に包まれている。そこで出会ったのは名も聞いたことのない異世界の神、なんでも俺はまだここで死ぬはずではなかったらしい、そして魔王も。冗談ではない、命を賭して倒した相手がコイツの手で生き返っていただなんて。それでも俺にコイツに立ち向かう力もなければ体もない、故に俺はこいつの誘いに乗ることにした。やつの話では元の力は称号に封じ込まれ、条件を満たすことで順番に力が解放されていくとのことだ。これは好都合だ、これから生まれ出る世界では人間しかいないらしくそれは魔王とて例外ではない。よって力が封じられていればただの人間、元々人間である俺なら一瞬でケリがつくと思ってた。転生を受け入れた俺に満足そうに頷いた神は、最後に幸せになれと呟いて俺を送っていった。だが俺はこの時はこんなことになってしまおうとは想像もできなかった。
こうして魔王を倒して世界を救い、勇者と呼ばれた俺は転生し、オレからワタシになった。