第十三話 童帝は勘違いの嵐に遭うようだ
今朝はいつもどおりに道場に行くと、師匠に今日は体をしっかり休めなさいって言われたから学校に随分早く着いてしまった。どうやら昨日戦闘をしたのがバレてたらしく、ついでに少しお説教されたよ。まったく、こっちが疲れていること知ってて正座までさせるとか鬼だろ!!……まぁそれは置いといて、俺は今、まだあまり人のいない廊下を一人で歩いている。廊下から見えるグラウンドには、運動部が朝練をしているのがよく見える。俺もなんか部活に入ろうかなぁなんて思いながら歩いていると、いつの間にか教室についていた。
「おはよーってあれ?まだ一人しかいないのか?」
教室に入ると既に先客がいた、まぁまだこんなに早いしな。けどせっかくだから一番乗りが良かった。先客の方を見てみると、そいつは机に座って本を読んでいた。少し長めの黒髪に細めだが引き締った体、俺の声に反応して上げたのだろう顔を見てみると、こちらを見つめる瞳は彼女とは対極の紅色。そして爆破対象。あの源仙 紗友の双子の兄、源仙 逢魔だ。噂では入学初日にファンクラブができたとか、既に数人に告白されたとか、そんな羨ましいものばっかり聞く。……まったく、呪い殺してやろうか?
「やあおはよう、確か桜童くんだよね?」
「あ、ああそうだけど、何か用か?」
畜生爽やかイケメンスマイルでこっちを見るな!!眩しすぎて見えないだろ!?……てかヤバくないか?朝早くの教室に昨日襲ってきた奴の兄とふたりっきりって殺されてもおかしくない状況だよな?今武器になりそうなものは近くの椅子か、少し遠いが開けっ放しのロッカーの中にある自由箒くらいか……
源仙……ややこしいから逢魔でいいか、が立ち上がってこちらに向かってくる。思わず構えると、逢魔は慌てて手を振った。
「ちょっと待ってくれ!!別に僕に敵意はないんだ!!」
「……えっ?」
逢魔の言葉に思わず動きを止める、しまったと思ったが相手を見る限り嘘は言ってないようだ。
「実は君と少し話がしたくてね。妹に変わって君に謝らせてくれ。本当に済まなかった!!だけどあいつも悪い子じゃないんだよ!!ただちょっと思い込みが激しいところがあってさ、昔僕が読んであげた本のせいか自分を勇者だと思い込んでいるんだ。けど昔からよくガキ大将とかを魔王と称してボコボコにしたりすることはあったけど今回みたいに特に悪いことをしていない人を襲ったのは初めてで、いつもならやり過ぎないように止めに入るんだけど今回は気づかなかったんだ。だから僕にも非はある、勿論あとで紗友にも謝らせるけど、先に僕の謝罪を聞いて欲しい」
「あーそういうの別にいいよ、お前は悪くないし。まぁあとであいつと話をしようと思ってたからあとで呼んでくれたらいいよ、できれば二人きりは嫌だしな」
「そうか、ありがとう。それじゃああとで連れてくるよ」
そういって胸を撫で下ろす逢魔、そういえばこいつ妹とは一緒に来てないのか?
「そういえばなんで昨日のこと知ってんだ?あの時お前いなかったよな?」
じゃないと困る、だって魔法とか使ってたし、もしそんなところ見られてたらただ事じゃないんだけど……
「ああ、ちょっと昨日紗友が涙目で帰ってきたから問いただしたんだ。そしたら喧嘩して負けたとのことだ。正直驚いたよ、だって紗友を泣かせた相手なんて親を除けば一人しかいなかったからね」
良かった、見られてはなかったみたいだな。それにしてもあいつを泣かせる奴がいるとか想像もできんな、一体どんなやつだったんだ?
「そういえば自己紹介がまだだったね、源仙 逢魔だ、源仙は二人いるから逢魔と呼んでくれ」
逢魔はそう言いながらこっちに手を差し出した。おお、なかなかに礼儀正しいじゃないか。けどやっぱりイケメンスマイルがさまになっててイラッとくる、ちょっと位いたずらしてもいいよな?大丈夫、ちょっとタンスの角で小指を打つ程度の呪いをかけるだけだ。
「ああ、もう知ってるみたいだけど桜童 善次郎だ。よろしく」
そういって握手をしようと手を伸ばすと、手が触れた瞬間にバチッと静電気みたいなものがきて思わず俺たち二人とも手を引っ込めてしまった。もしかしてレジストされた?でもいくら弱い呪いだからって普通そんなことできないし、もしかして源仙家は特別な家系なのか?
「……こんな時期に静電気かな?せっかく季節が終わったと思ったのに」
「全くだな、それじゃ今度こそよろしく頼む」
今度は呪いなしで手を握るがなんともない、まだ断定はできないがやっぱりレジストか?てか逢魔さんなんでそんなに強く握ってんですかってギブギブギブ!!
「確かに昨日のことは悪く思っているけど紗友を泣かせた罪は重いよ!!」
「いたたたた!!ギブギブギブ!!」
ちょっ、こいつ見た目の割に無茶苦茶握力強い!?もしかしてこいつシスコン!?ちょっと色々残念じゃねえか!!
「まぁ今回はこのくらいにしといてあげるけど、次はないからね♪」
ちょっと逢魔さん!?顔は笑ってるけど目が笑ってなくて怖えぇんだけど!!やばい、次はマジで殺られる……
そんな感じで今は普通に握手をしているんだけどそれが悪かったらしい、突然ガラッと教室の扉が空いた。
「ここから強烈なネタの匂いが!!ってももももしやこれは!?朝早くの教室にふたりっきりで手をつないでいるってことはそういうことね!!」
教室に入ってきたのは確か早乙女さん、何故か興奮しているのか目が血走ってて怖いんだけど!?正直さっきの逢魔より怖ええよ!!ほらだって逢魔もヒいてるし!!それに何か壮絶な勘違いをしてらっしゃるし!!
「あっ、あの早乙女さん?ちょっと「大丈夫!!それ以上は言わなくてもわかってるわ!!それじゃ後は若いお二人さんでごゆっくり……」っててめぇ絶対わかってねぇだろ!!」
畜生あのアマ一瞬で消えやがった!!逃げ足はあの黒光りするG並か!?
「ははっ、災難だったね。噂にならないといいけど……」
本当にそれだよ、ため息をつくと隣の逢魔とはもった。思わず目が合うとお互いに苦笑する。なんかこいつとは仲良くなれそうな気がする。
「それにしてもそろそろ人が来る時間だね」
「けどまだまだHRまで時間あるししばらくなにか話さないか?」
「そうだね、それじゃ最近世間を騒がせている能力者と“セカンド=バースデイ”の話でも……」
「悪い、もうちょっと楽しい話をしないか?」
「うーん……それじゃあこの前のチェリーマンの再放送は見たかい?なかなか面白かったんだけど……」
「あぁあれか!!あれは良かったな!!特に最後の新しい必殺技のところ!!」
「おお良かった、話か通じた!!実は中学時代はこの話がわかる人がいなくてね、ずっと誰かとこの話題で語り合いたいと思ってたんだ。チェリーマンの話ができて嬉しいよ、でも僕はあの怪人が第二形態になるところの方が好きだけどね」
こうして俺たちはチェリーマン(昔やってた子ども向けアニメ)について語り合った。いやーまさかコイツがチェリーマンを見ているとは思わなかったよ、それに俺の話にもついてこれるし、なかなかに有意義な時間だった。しばらく話してるうちにほかの生徒もぼちぼちやってきて、ちょうどいいところに来た四葉を捕まえて話に無理やり参加させたり、淡雪にチェリーマンのあらすじを教えたり、勝負を仕掛けてきた一ノ瀬とチェリーマンのクイズを出し合って勝負したりと楽しい時間を過ごしたが、その時間はある人がやってきたことによって終止符を告げられる。
「す、すまない。ちょっといいか?」
「んっ、なんだよ?今良いところなのに……ってお前は!?」
そこに立っていたのは源仙 紗友、昨日俺のことを魔王呼ばわりした挙句攻撃してきた張本人。昨日のことを謝りに来たのかはわからんが、昨日とは違って戦意はなさそうだ。昨日みたいに泣きたくなるような殺気は放ってこないし何故か顔を赤くしてうつむいている、それに何かをブツブツとつぶやいているようだ。昨日も似たようなことがあったので警戒していると、突然顔をばっと上げて俺を目が合う、その目はまるで何かを決心したかのような目をしていた。
「そ、そのだな……これを読んでくれ!!」
そう言って渡されたのは真っ白な封筒、一瞬場の空気が止まる。果たし状かと思ったけどそうではないようだ、表には桜童へと書いていてハートマークのシールで封をされている。これじゃまるでラブレターのようだ……ってラブレター!?いやいやいやありえないよな!?だって昨日殺そうとしてきたやつだぞ?あぁそんな捨てられた子犬みたいな目で見るな!!昨日とのギャップで余計に可愛く見えるだろうが!!
「あ、あぁどうも……」
「絶対読めよ、絶対だからな!!」
「えっ?おい、ちょっと待てって!!」
彼女の目に負けて手紙を受け取ると、彼女はそう言って教室から出て行った。俺は慌てて立ち上がって紗友を追いかけようとするが机の角で足の小指を打ってしまった。痛ってぇぇぇぇ!!畜生なんでこんな時にこんな目に!?痛くてぴょんぴょん飛び跳ねていると両肩をがしっと掴まれた、後ろからものすごいオーラを感じる。後ろを恐る恐る振り返ってみると、そこには二人の鬼がいた。
「ねぇ善ちゃん、さっきのはどういうことかな?」
「さぁ桜童くん、君の罪を数えたまえ」
ふふふふと笑う四葉と逢魔、助けを求めようと淡雪たちの方を見るが既に淡雪はおらず、一ノ瀬はほかの女の子達と楽しそうに話している。あっ、今こっち見て鼻で笑った。あいつ後で絶対潰す!!どこをとは言わないが。
「ねぇ、早くさっきの質問に答えてよ」
「人を待たせるのは関心なないよ?」
……あぁ、もしかしたら俺の冒険はここで終わりかもしれない。どう考えてもこいつらから逃げれる気がしない。きっと紗友は襲うやつを間違えていた、なんせここに魔王が二人もいるのだから……