12星座別恋愛小説 ~やぎ座~
これはあくまで私の主観で書いたやぎ座像ですので
この小説を読んで気を悪くしたやぎ座の方がおられましたらご容赦下さい。
♑12月22日~1月19日生まれ Capricorn♑
*几帳面・真面目
*完璧主義者・厳格
*保守的
*努力家
*忍耐力が強い
「八木さん、この資料至急コピーしてくれる?」
「あっはい。」
八木 杏子の仕事はこれだ、コピーやらお茶やらまるで一昔前のOLのようなことをさせられている。
公務員という名前の響きはいいのだけれど現実の壁は私をやすやすとは向こう側に通してくれないのだ。
一地方公務員である私はとくに大きな仕事を任されたこともなければこなしたこともない。
いくら一生懸命頑張って働いていても報われない。
「どうして私ばっかり・・・・・」
「八木さんどうかしたんですか?」
思ってたことがつい口に出てしまったのをすぐ後ろにいた人物に聞かれてしまった。
上司だったら無駄口叩いでないで働けと言われただろう、だが後ろにいたのは
この部署期待のエース羽鳥さんだった。
「あっいえなんでも・・・」
「最近顔色悪いみたいだし、あんまり無理しないでくださいね。」
「お気遣い有難うございます。羽鳥さん、もしかしてそれコピーですか?」
杏子は羽鳥の手にある書類を示した。
「そう、次の会議で使う分。」
「よろしかったら私がコピーしましょうか?ついでですからやっておきます。」
どうせ私にはこのくらいの仕事しかできないのだし、と心の中で付け加えた。
「そうですか。ではお言葉に甘えて、八木さんが配布してくれている資料は
いつもきれいに揃えて留められているのでやる気の出方が違うんですよ。」
びっくりした。まさかそんなことに気付いてくれている人がいるとは思わなかった。
「小さいことでもきっちりこなしたいんです。書類お預かりします。」
ではお願いしますと軽く頭を下げ羽鳥は自分の机に戻っていった。
羽鳥は杏子の尊敬する人物であり憧れの人物でもありそして好きな人でもあった。
けれど容姿がいいわけでも仕事ができるわけでもない、
真面目だけが取り柄の自分に羽鳥が振り向くわけがないと思っていた。
だからこの恋はずっと私の心の奥底に押込めておこうと決めていた。
市役所を出ると外はもう真っ暗だった。
真冬の午後五時の空は雲に覆われ星が一つも見えなかった。
マフラーに顔をうずめ足早に家への帰りを急ぐ。
すると後ろから本日二度目の声がかかった。
「八木さん、今帰りですか?奇遇ですね、僕もなんですよ。」
羽鳥さんとは同じ電車通勤なので駅までの道すがら横に並び話しながら歩いた。
正直緊張して何を話したのか全然覚えていなかったが唯一これだけは覚えていた。
「僕、八木さんは絶対何かのプロジェクトチームに参加した方がいいと思うんですよ。」
何かの話のつながりでそういう話になった時に羽鳥さんは
私にとって夢のような嬉しいことを口にしてくれた。
「私もそうなれたらいいとは思うんですけどね。」
にやけた口元が見えないようにマフラーで覆う。
「真面目だし努力家だしなんていうのかな、八木さんには不屈の精神みたいなのを感じるんです。
こんなスピリチュアルなこと信じませんよね。」
「いいえ。」
私は思ったより大きな声が出てしまったのでそれを隠すように慌てて言葉を付け足した。
「仕事のできる羽鳥さんに褒めてもらえるのは大変光栄です。
けど現実問題そんなうまくいくわけはなくて・・・。」
「何かチャンスがあれば・・・・・」
羽鳥が何かを言いかけ途中で止まったので杏子はずっと横にいたのに見れなかった彼の顔を見た。
考え事をしている様子だったがそれはすぐに終了したみたいで急にこちらを向き
目がバッチリ合ってしまった。
いつも遠くから眺めていてもきらきら輝いている彼の瞳が私を真っ直ぐとらえる。
あまりにもみつめてしまったので羽鳥さんの目に私の目を真ん丸に開いているとぼけた表情が
映っているのが見えてしまいそうだった。
「八木さんならきっとチャンスをつかめます、がんばって!」
「あ・・ありがとうございます。」
結局その話はそのまま終わり話題は次へと流れてしまった。
数日後私は突然上司に呼び出された。
「えっ私がですか?」
「羽鳥直々の推薦だ。だが企画に参加する以上はそれなりの成果を出してもらわないと困る。」
「はい!願ってもない機会大事に使わせてもらいます。頑張ります!」
自分のデスクに着くと羽鳥さんと目が合った。
羽鳥さんは私にガッツポーズを向けたのでお返しにぺこりとお辞儀した。
それから私の仕事は一変した。
今までの事務仕事から会議をすることのほうが増えた。
自分でも驚くくらいの統率力や実行力を発揮し徐々に私の力を認めてくれる人が
羽鳥さん以外にも現れてきた。
この企画が上手くいったことが功を奏したのか次の企画の参加が決まった。
今までの努力が報われる時が来たのだと羽鳥さんには感謝してもしきれないくらいの
ことをしてもらった。
私の中で羽鳥さんの存在が大きく占めるようになった。
それに呼応するかのように彼への恋心も奥底から浮かび上がってくるのも感じた。
だけど後者はさらに碇をつけて沈めこむことした。
叶いもしない恋を追いかけるようなことより私は自分に合った恋を探す。
そして今はその時期ではない、やっと開花したばかりの仕事の芽を潰すわけにはいかない。
そんなある帰り道市役所を出る時刻がいつもより遅くなってしまい
白い息をハァとはき出し一人家路を目指していた。
「八木さん。」
振り返ると羽鳥さんだった。
「お疲れ様です。羽鳥さん先お帰りになってませんでしたっけ?」
「ちょっとね、八木さんに用事があって。」
「何でしょうか?」
「用って言っても大したもんじゃないんです。企画の成功したって聞いたからおめでとうって言いたくて。」
「わざわざ有難う御座います。これも全て羽鳥さんのおかげです。」
「いえいえ、僕はただ八木さんの才能をみんなに分かってほしかったんです。
それに最近すごく生き生きしてて仕事に熱中している八木さんいい顔してますよ。
まるで僕はダイヤの原石を見つけた採掘者の気分です。」
正面切ってこんな小っ恥ずかしいことを言われると寒さで赤なっている頬が
さらに紅潮して体の温度も急上昇してしまうではないか。
冬だというのにコートの中は汗が吹き出しこめかみから流れ落ちる。
杏子はもう羽鳥の方を向けなかった。
「私も・・・迷子になってたところを見つけてもらえて嬉しかったです。」
今の自分の精いっぱいの感謝を羽鳥に告げる。
杏子にはこれ気持ちを吐露するのに告白するくらいの勇気が必要だった。
だが昔の自分からは想像もできないほど成長した。
今の自分は昔の自分とは違う、そしてもっと変われるだろう。
新しい自分へ。
「八木さん。」
「はい。」
「僕は以前から八木さんの才能を他人にも分かってほしいと思っていたんです。
そしてあなたの才能を発見したとき同時に貴女の魅力も発見したんです。
僕はその魅力の虜になってしまいました。」
「私の魅力・・・ですか。」
「何事にもめげずに努力する姿勢、それが僕が見つけた八木さんの魅力です。
是非僕とお付き合いしてくださいませんか?」
歩いていた足を止める。
突然のことで私は戸惑ってしまった。聞き間違いかと思ってしまった。
「こんな台詞ちょっとくさいですかね。」
「とんでもない、すごく嬉しいです。」
それはまるで反射のように私の口からするりと飛び出した。
「こちらこそ是非お願いします。」