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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【BL】無償の愛と愛を知らない僕。

作者: ありま氷炎

 

 無条件に愛されるのは難しい。

 僕はそれを知っているから、いつも誰かに与えてきた。

 何かを与えることによって、返ってくる愛。

 僕は疲れてしまった。


 親に対しては「いい子」であることを心がける。

 いい子だから愛される。

 友達には優しくする。

 優しくするから好かれる。

 告白してきた女の子にも優しくした。

 だから好かれる。


 なのに、僕はなんでこんなに寂しい気持ちなんだろう。

 何かをしないと僕は愛されないのか。

 もう、誰の顔色も窺いたくないし。

 愛されなくていい。

 うそうそ、愛されたい。


 疲れてしまって、家を出た僕を救ってくれたのは、遥。

 彼は僕に何も求めず、ただ僕を拾ってくれた。


「家に帰りたくないんだったら、しばらく俺の家にいれば」


 遥はそう言って、僕を家に置いてくれた。

 凄い綺麗な人だったし、もしかしてそういう趣味なのかなって思ったけど、遥は何かを僕に求めることはなかった。

 遥の家で、僕は何しなくて過ごした。

 だけど、流石に何もしないのはまずいと思って、家の掃除をし始めた。

 遥は喜んでくれたけど、何もしなくていいからと言った。

 遥の作るご飯は美味しくて、僕もそんな美味しいご飯を作りたくて作り方を聞いた。

 そうして一緒に過ごしていたけど、ある時親が迎えにきた。

 帰るのは嫌だったけど、遥に迷惑をかけたくなくて、親元に帰った。


 遥と過ごした日々は僕を強くしてくれて、無償の愛を教えてもらった気がした。

 だから、僕は無理をするのをやめた。

 両親は少しだけ冷たくなった気がしたけど、徐々に言う事を聞かない僕を受け入れてくれた。

 友達は減って、彼女はいなくなった。

 だけど、それでいい。


 そうして何とか生きて、就職した。

 そこで僕は遥に再会した。

 呼びかけたかったけど、迷惑になるかもしれないと堪えた。


「橘くんだね。よろしく頼むよ」


 彼はまるで初対面のように僕に挨拶をしたので、僕もそれに合わせて返した。

 目で彼を追ってしまいそうになったけど、僕は堪えた。

 彼は営業部長で、僕は新入社員。

 話をする機会もなく、数か月が過ぎた。


 外回りが終わってそのまま直帰することになり、駅に向かって歩いていると遥を見つけた。

 いや、内山部長だ。


 ぼんやりとしていて、僕は思わず駆け寄ってしまった。


「内山部長」

「ああ、橘くん。今から帰るの?」

「はい」

「そう。気を付けて」


 遥はそう言って、いなくなろうとした。


「内山部長。一緒にご飯食べませんか?」

「え、っと」

「行きましょう」


 僕は強引に彼を誘って、あの場所に連れて行った。


「ここは?」

「この焼肉定食は美味しいですよ」

「知ってる」


 彼は遥だ。

 知ってるはずだ。

 街で呆然としていた僕を、この店に連れてきてくれたのは遥だから。


「食べましょう」


 僕は勝手に焼肉定食を二人前注文した。

 いただきますと言って、食べ始めた僕の向かいに座った遥は、少し苦笑した後、食べ始めた。


「君は、何も聞かないの?」

「……話したいですか?」

「大人になったね。本当に」


 遥も僕を詮索することはなかった。

 名前も何もかも、彼に聞かれたことはなくて、僕が彼に話した事だ。


「辰見。誘ってくれてありがとう。この焼肉定食を久々に食べた。やっぱり美味しい」

「僕は十五年ぶりです」

「十五年。そんなになるのか」

「はい」


 僕たちは食べながら、だらだらと話をする。

 あの頃のように。


「ご馳走様でした」


 二人そろってそう言ってしまい、お互いに笑い合う。


「お代はもちろん私が払うよ」

「だめですよ。十五年前にできなかったので、僕が払います」

「そうか。じゃあ、遠慮なく」


 その日から、僕たちはたまに夕食を一緒に食べることになった。

 ただご飯を食べて話をする。

 それだけだ。

 だけど、それだけで僕も遥も楽しかった。


「内山さんってゲイらしい」


 そんな噂が出始めて、僕はドキリとした。

 僕のせいと思ったけど、そうじゃなくて、遥と昔付き合っていた男がどうやら会社に難癖をつけてきてらしい。

 遥は、噂を否定することなく、だけど、責任を取って辞めた。


「今日会えますか?」


 そうメッセージを送ったのに、彼は返事をしなかった。

 電話してもとらなかった。

 なので、一か八か、僕は彼の家に行った。

 インターフォンを鳴らしたら、無精ひげを生やしたらしくない遥が出てきた。


「何の用かな?」

「話しがしたくて」

「どんな話?」

「とりあえず中にいれてくれませんか?」

「怖くないの?」

「別に」


 そんなやり取りをした後、遥が部屋の中に入れてくれた。

 部屋は片付いていたし、僕が十五年前にいた時とほとんど変わっていなかった。

 懐かしい思いを込み上げてきて、すこしセンチメタルな気分になる。

 だけど、遥は淡々としていて、僕に椅子を勧める。


「お茶でいい?」

「はい」


 ペットボトルに入ったお茶を渡され、彼は僕の前に座った。


「何の話がしたいのかな?」

「えっと、あの」

「私がゲイであること?」

「いえ」

「……君と一緒に暮らしていた時、私は何度か君にキスしたいとか、そういう汚い欲望をいただいていた。ご両親が迎えにきてくれて正解だったと思うよ」

「どうして、そんなこと言うのですか?」

「聞きたかったんじゃない?」

「そんなこと聞きたかったわけじゃないです。ただ心配で」

「心配ね。まあ、いいけど」


 遥は無精ひげを生やしているせいか、少し怖い感じがした。


「君はもう私にかかわらないほうがいい。君が私とご飯を食べていたことなどは、周りに知られていないと思うけど、どうなるかわからないから」

「僕は構いません」

「私は構う。君を酷い目に遭わせたくない。ご両親にも。ご両親はとても心配されていただろう」

「はい。だけど、僕が遥のおかげでどんなに救われたかと話したので、理解してくれたと思います」

「理解ね。まあ、そう思えるならいいけど。とりあえず、話は済んだ。帰ってくれないか」

「今日は帰ります。また来ます。今度ご飯つくってもいいですか?」

「だから、私にはかかわらないほうがいい」

「僕は僕の考えで動きますから」


 遥は溜息をついた後、僕を送るため、玄関のドアを開けた。


 それから何度か、遥の家に行った。

 ご飯をつくったりして、迷惑そうな彼と話をした。

 僕は何をしているんだろう。

 昔の恩返し?

 そう、それだ。

 借りを作りたくない?

 うん。

 僕はそう思って、続けいた。


 ある日、僕がゲイだと噂が立った。

 僕が遥の家に通うのを見た人がいたらしい。


「ゲイではないと思うんですけど、そう思われるなら、そうかもしれません」


 僕は冷たいのかわからないけど、人を好きになったことがない。

 好かれたいと思うのに、好きっていう気持ちがわからない。

 嫌いの反対だというのはわかるけど。


 僕がゲイという噂が出始めて、距離を置く人、いつもと変わらない態度、色々あったけど、攻撃的な人はいなかった。遥が辞めたこともあって、会社ではゲイに対する偏見をなくそうとかそういう動きがあったみたいだ。

 僕は、自分がいわゆるゲイなのかわからないけど。

 色々言われなくなるのはいいことだ。


「会社大丈夫?」

「大丈夫ですよ」

「君も、ゲイって疑われたんだろう?」

「そうですね。だけど、まあ、いいです」

「いいのか?」

「僕は自分がどっちを好きなのかわからないし、多分人を好きになったことがないのです」

「そうなんだ」


 遥は少しがっかりした様子だった。

 なぜ。 

 それからも僕は彼の家に通い続けた。


「辰見。私は引っ越す予定なんだ。新しい土地でやり直すつもりだ」

「そうなんですね」


 僕の返事に、遥が少し苦笑する。


「君には迷惑かけたね。ありがとう」

「迷惑なんて。新しい家にも通ってもいいですか?」

「遠いから無理だよ」

「無理じゃないです。頻繁には通えないだろうけど」

「後で教える」


 遥はそう言ったのに、彼は突然僕の前から姿を消した。

 スマホも変えたらしく、つながらなくなった。

 迷惑だった?

 僕が?


 どうにか彼に会いたくて、焼肉定食のある食堂へ通った。

 通い始めて二か月、店主に聞かれた。


「もしかして、遥を待ってる?」

「はい。彼は来ますか?」

「来るよ」

「会わせてもらうことはできますか?」

「彼が望めばね」


 店主にお願いしたけど、遥が僕に会いたくないとかで、会うことができなかった。

 そのことを知って、僕は十五年前、家を出た時と同じ気持ちになった。

 絶望だ。

 捨てられた気持ち、誰にも好かれていない、無価値、そんな気持ちが戻ってきた。

 呆然と歩いていると、声を掛けられた。

 遥だった。


「辰見!いたか、よかった!」


 遥は駆け寄ってきて僕を抱きしめる。


「遥?!」

「ごめん」


 遥は直ぐに僕を解放した。


「元気そうでよかった」

「遥こそ。元気そうで。僕に会いたくなかったんじゃないんですか?」

「そうだけど、そうじゃない。説明したい。そうしたほうがいいと思う」


 遥に神妙な顔でそう言われ、僕たちは再び食堂にもどった。

 店主は事情をしっているのか、個室を貸してくれた。


「辰見。私は汚い。君のことが好きになってしまって、一緒にいると辛くなったんだ。だから、離れた。それだけだ」

「好きだから離れる?どういう意味なんですか?」

「一緒にいると君に触れたくなる。だけど君にはそんな気持ちはない。迷惑だろう。気持ち悪いと思われるのはいやだから」

「迷惑なんかじゃありませんよ」

「そうか。だけど、だめだ。一緒にいるのが辛い」

「わかりません」

「だろうな。君はきっとわからない。好きになったことがないって言っていたもんな」


 遥は残念そうにそう言う。

 それがとても悔しい。


「僕は遥とご飯食べたいし、話したい」

「今の私には無理だ。落ち着いたら連絡する。それでいい?」

「嫌だ。僕は今がいい」


 そう言った瞬間、彼がグイっと近づいてきて、唇にキスをした。

 一瞬だ。


「嫌だろう?こういうことをしたくなるんだ。君と話していたら」


 遥の唇はとても柔らかくてふわふわした気持ちになった。


「……いいです。してもいいです」

「は?」

「もう一回してくれますか?」


 そう言うと遥がもう一回近づいてきて、今度はしっかりキスをした。

 唇を重ねて吸い付く感じのキスだ。


「嫌だろう?」


 遥は自嘲していたけど、全然嫌じゃなかった。

 なんていうか気持ちよくて、もしかしてこれが好きってこと?


「遥、僕、あなたのこと好きかもしれない」

「……辰見。自分が言ってることわかってるのか?」

「わかってます」


 それから、僕と遥は正式に付き合い始めた。


 彼といると楽だ。

 何もしなくても、彼は僕を愛してくれる。

 無償の愛、それが本当にあることを僕は知った。


 

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