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「二年前の仲間(パーティー)を探す?」

 王都に帰り着いた翌朝、宿の一階で朝御飯を食べながら今後の方針を話し合っていた三人……と言うか話し合っている二人と聞いているだけの一人。

「あぁ、二年前もかなりの人数が参加している筈だし、前回の討伐隊が石像(ガーゴイル)にやられた話がギルドに届いていた以上、生存者も居る筈だ」

 その生存者が今でも王都に居るのか、そもそもまだ生きているのかはわからないが、当時の仲間なり知り合いなりを探しだすことが出来れば、今回よりは穏便に何かを思い出すことが出来るかもしれないし、少なくとも本名なり通り名なりはわかるだろう。

「そう……ねぇ」

 二年前の討伐隊に参加していたのは確実なのだから、中々良い思いつきかも知れない。

「もしかしたら、恋人とか旦那とかに会えるかもね」

 それまでずっと食べながら聞いているだけだったレオンが、何気なく口を挟んだその台詞にルフィは驚いた様子で目を丸くする。

「居てもおかしくないでしょ? ルフィって美人だし」

 年齢的に居なかったら居なかったでナンだし。

 前半部分では満更でもなさそうに緩んでいた頬が、後半部分の無邪気な蛇足に軽く引きつる。

「すっ好いた惚れたなんて、個人の自由でしょっ。それに冒険者って同じ場所にあんまり長く居ないらしいし、えっと、ほら、日ごろ顔を合わせるのって、剣を振り回すしか能がない筋肉馬鹿ばっかだし……」

 記憶がないので正確な年齢はわからないが、可能な限り……むしろ不可能なくらい若く見積もっても、少なくとも二十歳は越えているであろう自分が、俗に言う適齢期と言うものを少なからず過ぎているかもしれないと言う、決して低くはない可能性を直視させられて、言い訳がましく弁解する。

「恋人なり旦那なりが居なかったと言うのは覚えているみたいだな」

 イルの静かな呟きに、ルフィは我に返って、もう一度落ち着いて考え直す。

「……そっか、居たかも知れないのよね」

「でも、今の焦り方からすると、居なかった可能性の方が高いんじゃない?」

「……レオンの意地悪」

 あながち否定しきれないレオンの指摘に、ルフィは水の入ったコップを手に取りながら、拗ねたように唇を尖らせる。

「大丈夫だよ。もし居なかったらイルと結婚すれば良いんだし」

 軽い調子のレオンの爆弾発言に、ルフィは口に含んだ水を噴出し、イルも口元まで運んだパンを取り落とす。

「イルに振られたら、その時は僕のお嫁さんにしてあげるから」

 と続いたレオンの言葉が絶妙なフォローとなり、何とか気を取り直す事ができたルフィは、火照った顔を両手の平で隠すように抑えながら、ありがと、と呟く。

「ところで……」

「……何?」

 更に口を開こうとするレオンに、ルフィが緊張した面持ちで尋ねる。

「『剣を振り回すしか能がない筋肉馬鹿』ってイルの事?」



「違うのよ?」

「何が?」

 先を歩くイルの声がいつにも増して無愛想に聞こえるのは、ルフィの被害妄想である。

「何って、その……」

「筋肉馬鹿……でしょ?」

 言いよどむルフィの代わりに、レオンが答える。

「えっと、だから、その、あれは言葉のあやって言うか物の弾みって言うか……別にイルの事ってわけじゃないのよ?」

「そうだよ、イルが筋肉馬鹿なら、僕なんか剣を振り回す能もないただの馬鹿じゃないか」

 フォローにもならないフォローを口にするレオン。

「あ、いや、レオン、私が言ってるのはそういう事じゃなくてね……」

 不意に頭痛を覚え、こめかみを指圧しながら言い訳を続けようとするルフィの目前で、それまで追いかけていた背中が突然止まる。

「どうしたの?」

 軽くぶつけてしまった鼻先を押さえながら、涙目で自分よりも頭一つ分上にある後頭部に話しかける。

「着いた」

 イルが見上げるその先に、剣と杖を象った大陸共通の魔術師(ソーサラー)ギルドの紋章が掘り込まれた門扉が立ちはだかっていた。


 冒険者ギルドでは二年前の参加メンバーの名前こそわかったものの、その内の誰が生存者なのかすら記録に残していなかった。

 だが、大元の依頼主である魔術師ギルドなら、何らかの形で記録を残しているかもしれない。

 そう思って訪ねた魔術師ギルドではあるが、応対してくれた資料室の担当者は申し訳なさそうに頭を下げて、当時の記録は残っていない。と話す。

「残っていない。と言うよりも、記録するほどの結果がなかったので、最初から記録していない。と言ったが正確なのですが。あるのはこの名簿くらいですね」

 と出してくれたのは冒険者ギルドにもあった討伐隊の参加名簿だけだった。

「他に何か……二年前の記録じゃなくても、ディアス関係でなにか残っていませんか?」

「ディアス関連の資料は基本的に部外秘なのですが……」

 イルの問いに、担当者が思案気に眉を寄せながら頭を捻る。

「ディアスに襲われた村や攫われたと思われる人たちの資料くらいなら……まぁ、元々表沙汰になっている分しかありませんが」

「一応、見せてもらえますか?」

 何かの参考になるかと思い、資料に目を通す、念の為にとルフィにも資料を見せ、レオンが横合いからそれを覗き込む。

「ふぅん、ディアスってここ数年は村を襲ったりしてないんだね」

 少なくとも、表沙汰になるほどあからさまには。

 と言うレオンに、ルフィが眉を寄せて疑問を口にする。

「なら、何故、この二年間に二回も討伐隊を?」

 それ以前の大規模な討伐隊は十年以上前になる。

「この間のは一ヶ月前に王都でディアスと思われる男が目撃されたかららしい。……多分、二年前にもディアスの目撃情報があったのでは?」

 そうイルに同意を求められた担当者が小さく頷いて答える。

「そうです、二年前にも王都でディアスを見たと言う報告がありました」

「襲われた村は……王都からあまり離れていないところばかりだな……」

 添付されていた地図の印を指でなぞりながらイルが呟く。

 一番最近……と言ってももう十年ほど前になるが、襲われた村も王都からそれほど離れていない。

 かなり小さな村だったようで、ディアス一人に殆ど皆殺しにされ、生き残った数少ない村人たちも近隣の村に引き取られ、その後復興される事もなかったようだ。

「……行ってみる?」

 そうレオンが提案するが、イルは渋い表情で地図を覗き込んだまま考え込んでいる。

 二年前に討伐隊に参加したルフィが、十年前に滅ぼされた村に関係している可能性は低いし、もし万が一関係していた場合はやはりルフィにとって気持ちの良い状況にはならないだろう。

「しかし、まぁ、他に何も手掛かりがないのも事実か……」

 十数秒(しばらく)思案した後、イルは仕方なさそうにそう呟いた。

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