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「いくぞ」

「え?あっちょっと待ってよイル」

 翌日、ついて来いと身振りで指示して宿を出るイルをレオンが追いかけ、ルフィも慌てて後についていく。

「……どこに行くの?」

 なんとなくイルに直接聞くのは憚られたので、隣を歩くレオンに小さな声で尋ねるが、昨晩は結局ルフィの部屋で寝てしまい、朝食時までイルと会っていなかったレオンが知るはずもなく、さぁ、と首を傾げている。

「ギルドだ」

 自分の背後でこそこそと話している二人に、イルが一言で目的地を告げる。

 ギルドと一口にいっても、冒険者ギルド、魔術師ギルド、商人ギルド、職人ギルド、盗賊ギルド等々無数にあるのだが、イルが向かっているのは冒険者ギルド、仕事の依頼・斡旋から仲間の募集・紹介・仲介等、様々な便宜を図ってくれる組合のようなものである。

「そっか、討伐依頼に失敗しちゃったから、成功報酬貰えなかったもんね」

 レオンが納得したように頷く。

 今日明日の宿代に困るような事はないが、記憶が戻るか、せめて生活の目処がつく様になるまでルフィの面倒を看ることを考えれば、稼ぎは多いに越したことはない。

「ルフィの身元の調査も依頼したいからな」

 仕事を探すだけなら、イルだけで行けば良い・・・と言うより、ついて行くと騒ぐレオンの事を考えれば、イルだけで行った方が良いのだが、身元を調査するのには言葉やらでルフィの特徴を説明するよりも本人を連れて行った方が早い。

 ルフィが冒険者ギルドに登録している冒険者なら、ギルドに行けば顔見知りの一人も居るかもしれない。

「はぁ……ご迷惑をお掛けします」

 本当に私の事を調べてくれるんだ。と感心するルフィ。

 一月ほど面倒を看てもらって後は放り出されるかと思っていた。

 ”相性”が良ければもう暫く面倒を看てもらえるかも知れないが、昨晩はレオンが居た所為でイルはルフィの部屋に入ってすらいない。ルフィは気を使ってレオンが寝た後でイルの部屋に行こうかと考えていたのだが、疲れていたのかレオンよりも先に寝てしまったのだ。

 そもそも、イルが言うような調査はルフィが自分でするべきであって、イルがそこまでする義理はない。

「次の仕事も連れて行ってよね」

 等とねだっているレオンと、役に立たないから宿で待ってろ。と返すイルの様子を不思議そうに眺める。

 兄弟でもないのに”役に立たない”レオンの面倒を看ているイルにとっては、ルフィも似たようなものなのだろうか。何故、レオンの面倒を看ているのだろうか。

 そうは見えないが”少年嗜好”でもあるのだろうか……

 そこまで考えて、記憶もないのに下品な俗っぽい知識は覚えているものなのね。と苦笑するルフィであった。


 ルフィの身元調査は空振りだった。

 ルフィらしき女冒険者の登録はなく、ギルドの職員にもルフィを知る者は居なかった。

「ふむ……まぁ、そうだろうな」

 わかりませんでした。と回答するギルド職員にイルが当然のように頷く。

 登録については最初から殆ど期待していなかった。

 元々、冒険者は一つの街に落ち着く事が少なく、また少なからず危険を伴う仕事なので、短期間の内に様々な理由で面子が入れ替わる。

 そして、入れ替わる事が前提なので、そもそもの登録も、その情報の管理も至極大雑把になる。

 偽名での登録も珍しくない状況で、本名も覚えていないルフィの事を調べるのは不可能に近い。

「仕方がないな」

 そう呟いて、改めて仕事の斡旋を依頼する。

 ディアスのような賞金首の討伐や商隊(キャラバン)の護衛、魔獣退治等々の依頼書を思案気に眺めるイル。

 イル一人なら、どれだけ長期間だろうと、どれだけ遠くだろうと全く問題ないのだが、もう二年も記憶が戻る気配のないレオンはともかくとして、ルフィに関しては当面この街を離れるのは好ましくない。

 かと言って、比較的治安の良い王都とは言え、記憶のない女子供だけで長期間留守番させるのも心許ない。

 とは言え、二人を連れて行こうとすると賞金首討伐や魔物退治と言った危険な仕事が請けられない。

 レオンは戦士としてまだまだ駆け出しで、そこらの妖鬼(ゴブリン)にも苦戦する程度、ルフィに至っては実力どころか職種や得物すらわからない。

「……ルフィ」

「はっはいっ!」

 唐突に名前を呼ばれ、緊張した様子で返事をするルフィ。

 優しい人だとは思うが、無愛想で口数が少ないので不機嫌そうに声を掛けられるとどうしても緊張してしまう。

 イルは、背筋を伸ばして自分を恐る恐る見上げるルフィの身体を頭から足の爪先まで一通り観察した後、手の平を見せてくれ、と言ってルフィの両手の平を開かせ自分の方へ向けさせる。

「……剣や槍は使えそうにないな。短剣やメイスを使い込んだ様子もないし、近接武器よりは飛礫(つぶて)か弓か……」

 ふむ、と一人で勝手に納得するイル。

 おそらく冒険者であろうルフィ。得意な武器の一つくらいはある筈で、少なくとも獣や妖鬼(ゴブリン)から自分の身を守れる程度の技量は期待しても良いだろう。

 そう考えたイルは、依頼書の束から、街道で旅人を襲う妖鬼(ゴブリン)退治の依頼を抜き取ってギルド職員に受領の手続きを依頼した。



 王都から街道沿いに半日ほど歩いた所で、三人は野営の準備を始める。夜行性で日光を嫌う妖鬼(ゴブリン)に襲われやすいように、わざわざ森の傍まで寄っての野営である。

 その甲斐あってか、日が落ちてすぐ、レオンが退屈だと騒ぎ出す前に森の奥から幾つかの影が現れる。

 意外な事に、イルとルフィがほぼ同時にその気配に気付いた。

 矢筒を背負い弓を構えるルフィと、夜の闇に淡く光る剣を抜き放ったイルを見て、レオンが慌てて剣を取る。

 何処? とレオンが口を開く前に、ルフィが矢を番え弦を引き絞る。

 森の奥に吸い込まれるように飛んでいく矢の行方を確認もせず、ルフィは次の矢を番える。

 悲鳴とも怒声ともつかない声を上げて妖鬼(ゴブリン)が錆びた剣を振りかざし森の影から飛び出してくる。 ルフィの矢を受け浮き足立って襲い掛かってきた一体をイルが一太刀で斬り倒し、続いて出てくる数体もルフィの矢が的確に急所を貫いていく。

 イルの剣捌きに近寄る事も出来ず、ルフィの弓で次々と倒されていく妖鬼(ゴブリン)

「なんか……あっと言う間に終わっちゃったね」

 全く役に立てなかったレオンが気の抜けた様子で呟く。

 殆どの妖鬼(ゴブリン)がイルやレオンにたどり着く前に、ルフィの弓矢によって手傷を負い、或いは絶命させられ、射ち洩らした数体もイルが危なげなく斬り伏せた。

「弓矢があるだけで、随分と楽になるものだな」

 とイルも素直に感心する。

 牽制にでもなれば御の字、と思っていたが、ルフィの腕前は十分に一人前の射手として通用する。少なくとも、レオンよりは遥かに戦力になる。

「凄いやルフィ、格好いい!」

「もうレオンったら、そんなに褒めても何も出ないわよ」

 手放しにルフィを褒め称えるレオンと、褒められて照れ臭そうにはにかむルフィ、数日前に会ったばかりだと言うのに、まるで姉弟の様に仲の良い二人。

 イルは何故か懐かしそうにその様子を眺めていた。

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