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終章

「ねぇ、イル。そろそろ身を固めてみる気ない? 若い()紹介するわよ?」

「だから、ないって」

 戻ってきてから数ヶ月、殆ど毎日のように繰り返されるこの会話に、イルは辟易した表情で答える。

 毎日、院長室に呼び出されては、何枚もの肖像画を見せられて、どの()がいい?と迫られる。

 帰ってきてから碌に仕事もせずに、いい年齢(とし)してずっと孤児院で世話になっているので、無下には断りにくいのだが、その気もないのに中途半端な気持ちで話を受けるのは、相手にも失礼だろう。

 義母の、ほらこの()なんてどう?という熱心な勧めに、おざなりに返答しつつ、何とか院長室(ここ)から抜け出せないものかと頭を捻る。

 ルフィやレオンと別れて、もう半年が経つ。

 結局、二人の本名も聞かないままだった事に別れた後に気付いた。

 イルにとって、ルフィはあくまでルフィであり、レオンはやはりレオンでしかない。

「二人とも元気にやってるかな・・・」

 思い出してしまい、少し気落ちするイル。

 イルがおとなしくなったのを好機と見たのか、一押しの()の肖像画を手に、じゃあ明日の晩にこの子と一緒にお食事会をするわよ。と強引に話を進めようとするが、具体的な計画を立てはじめる前に、院長室の扉を誰かが叩い(ノックし)て、図らずも義母の野望を阻止してくれる。

「何?」

 話の腰を折られて不機嫌そうに、扉に向かって声をかける義母。

 申し訳なさそうに扉の向こうから現れたのは、この孤児院で子供の世話をしている十代後半の女性。

「すみません、イルさんにお客さんなんですけど」

「俺に?」

「多分、そうだと思うんですけど」

 要領を得ない回答に首を傾げるイル。

 帰ってきて暫くの間は、古い友人やすでに院を出た義兄弟姉妹らが訪ねてきてくれたものだが、最近は特に用事がない限りは、連絡もなしに来ることはない。誰かと約束でもしてたかな?と呟きながら、これ幸いと院長室を出る。

 義母が残念そうな表情で睨みつけてくるが、見ない振りをする。

「玄関で待ってもらっています」

 そう告げる院長室を脱出する機会をつくってくれた女性に、ありがとう。と二つの意味を込めた返事をして玄関へと向かうイル。

 イルの客は二人で一人は女性。と聞いた義母が後ろをつけてきている事には気付いていない。

 誰だろう、と思案しつつ、玄関に抜ける扉に手をかけたイルが、その姿勢のまま立ち止まった。

 向こう側から漏れ聞こえる話声。


「もぅっ、絶対にここだってばっ。さっきの人もイルの名前を聞いて呼びに行ってくれたんだし」

「絶対ここだと思うから、怖いんじゃないの、ね、また明日、明日出直しましょ」

「あぁもうっ、じれったいなぁ、そんな風だから嫁き遅れ(いきおくれ)るんだよっ」

「かっ関係ないでしょ、それはっ!」

「あるのっ、嫁に行くって言って村長さんからご祝儀まで貰ってきたんだから、今更帰れないだろ」

「誰も帰るなんて言ってないでしょ、ただ今日はちょっと・・・」

「今日が明日になっても何も変わらないだろ、半年もこの国の孤児院巡って探し回ったんだから、さっさと感動の対面済ましてよっ!」


 恐る恐るゆっくりと扉を開けるイル。

 イルに気付いたレオンが嬉しそうに大きく手を振り、ルフィが年甲斐もなくはにかんだ様子でおずおずと、来ちゃった、と上目遣いにイルを見つめる。

 逸る気持ちを抑え、大股に二人に近づいたイルは、二人纏めて一度に抱きしめた。

「ふぅん、イルってば年増と少年が好みだったのね」

 義母が、若い()を紹介しても反応しない筈だわ。と見当違いの反省をしたとかしないとか。

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