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 ルフィとレオンが攫われてから一週間後、イルはようやくディアスの隠れ家に辿り着いた。

 以前の館と似たような造りの、二階建ての古い屋敷だ。

 目を覚ましてすぐに、外門の衛兵に聞いた馬車の逃げた方へとひたすら追いかけた。

 馬車である以上ある程度整備された街道を通る可能性が高い事、『人形』を含めてかなりの人数が乗っていたため、その重みで馬車の轍がはっきりと土の上に残っていた事、街道を行く冒険者の大半が徒歩で旅をしているため、すれ違った旅人が馬車の事をよく覚えていた事。

 様々な要因が追跡を後押ししていたが、この短期間で辿り着いたイルの執念は賞賛に値する。

 だが、イルは自分の努力を誇る事はできなかった。

 むしろ、己の迂闊さを呪い続けた一週間だった。

 あの時、気を抜いていなければ、レオンが捕まる前に気付くことが出来た筈だ。

 レオンやルフィの前では、一人前ぶっていても、所詮この程度でしかない。

 自分が何もかも背負うつもりで、否、背負っていたつもりでいたのに、一番大切なものをあっさりと落としてしまった。

 辿り着いた屋敷の扉を睨み、イルは剣を抜いて一切の雑念を払う。

 後悔は後で幾らでも出来る。

 今、するべきことをする。

 二人は必ず助け出す。

 そう決意し、目の前の扉を開け放った。



 屋敷に入ってすぐ、前の館にもあった二階吹き抜けの大広間。

 イルの侵入は既に予期されていたらしく、そこには数体の悪魔の石像(ガーゴイル)と十数体の『人形』が待ち構えていた。

 吟遊詩人(バード)英雄譚(うた)に出てくる敵役のように、戦力を小出しにしてくれる気はないらしい。

 一体一体の強さは大したことはないのだが、全員が人間離れした怪力と耐久力を持っている為に、迂闊に剣を合わすことも出来ない。

 前回の教訓を活かして、武器を持つ腕や足を狙って剣を振るうが、如何せん敵の数が多すぎて思うように戦えない。

 広いとは言え、屋内であるため、壁を背にすることで囲まれる事態だけは避けているが、このままでは時間の問題だろう。

 広間で戦うのは不利だと判断したイルは、強引に包囲の一角を切り崩し、屋敷の奥へと走り込む。

 広間から屋敷の奥へと続く廊下に入り、入った瞬間、振り向きざまに両手で握った剣を振るう。

 狙いをつける余裕もなくなったのか、相手の左肩から右腰まで袈裟斬りに剣を叩きつける。肩口に食い込んだ剣が途中で止まりそうになるが、体重をかけて一気に振りぬく。

 身体を二つに裂かれた『人形』は表情一つ変えずに動きを止める。

 身体の断面から一滴の血もでない死体に、イルは苦々しげな表情で歯を食いしばった。

「ディアァスッ!」

 腹の底から搾り出したようなイルの叫びが屋敷に響いた。



 壁に背を預けて荒い息を吐くイル。

 動けなくなるような大きな怪我こそないものの、少なくない手傷を負い、出血と疲労で身体が鉛のように重く感じる。

 イルの目の前に転がる斬り捨てられた『人形』の残骸。

 お前らの仇は必ずとってやるからな。と言い置いて、壁から身体を引き離して歩き出す。

 ルフィとレオンを探し、ディアスを憎むイルの表情は血と汗に塗れており、険しいを通り越して凄惨ですらある。

「……イル」

 突然、後ろからかけられた声に、はっ、としたイルが勢いよく振り返る。

「ルフィ……無事だったのか」

 『人形』の残骸の向こうに一人立ち尽くすルフィの姿を確認して心の底から安堵の溜息を漏らし、疲れた足を引き摺って駆け寄る。

「イル……」

 暗く沈んだルフィの表情に、イルは一瞬戸惑って足を止め、レオンの姿がないのに気付く。

「そういえば、レオ……」

「ごめん」

 イルが言い終える前に、ルフィが謝罪の言葉と共にその胸に飛び込んでくる。

「ルフィ……?」

「本当に……ごめんね」

 イルは数秒(しばらく)何事かを考え込むように口を閉ざし、ゆっくりと目を閉じて、そして糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちる。

 頭一つ分ほど背の高い身体を全身で抱きとめたルフィが、もうイルに聞こえていないのを承知でもう一度謝罪する。

「ごめん……イル」

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