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 殆ど反射的に前を歩くルフィの腕を掴んで、振り回すように自分の後ろへと放り投げ、腰に佩いた剣を抜く。

 理由(わけ)もわからず突然投げ飛ばされたルフィが、痛いじゃないの、と尻餅をついた臀部を押さえながら、文句をつける。

 だが、イルはルフィの苦情に一切反応せず、自らも飛び退って休憩所と馬車から距離をとる。

 王都に帰ってきたときに感じた違和感の正体が、いまようやくわかった。

 これ程近づかなければ気付けないくらい、気を抜いていた自分の迂闊さを呪う。

「中々、感の鋭い奴だな」

 休憩所の中から、見慣れない長衣(ローブ)姿の男が現れる。

 長衣(ローブ)の男の後ろには、気を失っているらしいレオンを肩に抱えた冒険者風の大男が立っており、その奥にも何人かの人影が見える。

「なっ何?どうしたの?」

 状況が飲み込めないルフィが、戸惑いつつも腰の小剣を抜いて立ち上がる。

 ルフィを背中に庇うように立っているイルを、冒険者風の一団が半円を描くように包囲する。

 イルと対峙している人数は四人。

 皆、冒険者風の服装をしており、見た目で判断するなら、戦士が三人、盗賊が一人、内盗賊は女性である。

「何……この人たち……?!」

 一見何の変哲もない四人を前に、ルフィが小剣を握る手に力を込めて、つばを飲み込む。

「気配が・・・ない?」

 確かに目の前に居るのに、何の気配も感じない。

 剣や短剣を抜いているというのに、殺気すら感じない。

 その四人と御者台に居る男、そしてレオンを抱えている大男。

 今正に斬り結ぼうかと言う緊迫した状況であるにも関わらず、彼らの顔には人の良さそうな微笑みが貼りついている。

「ふむ……街に入るために少しばかり表情を造って見たが、この場面で見ると些か滑稽だな」

 唯一、人の気配のする長衣(ローブ)の男が、一同を見回してそう評価する。

「館の地下にあったのと同じ『人形』・・・か?」

 イルは自分の背中に冷たい汗が流れるのを感じる。

「え? ディ……アス?」

 イルの背後で、ルフィが長衣(ローブ)の男を見て息を飲む。

「久しぶり……と言うべきか、今は『ルフィ』と言う名前だったか?」

 見た目は初老の男で、少々痩せ気味。その酷薄な口調さえなければ、人の良いおじさんに見えたかも知れないその男が、冷たく笑う。

「どうしてここに?」

「どうして? ここに? ……もうわかっているだろう、思い出した筈だ」

 至極楽しそうに笑うディアス。そして、それを苦々しげに睨み付けるルフィ。

「そこの戦士。私の実験体(もの)を返してもらうぞ?」

 その言葉を合図に、大男がレオンの身体を乱暴に馬車に放り込み、一体の戦士『人形』がイルに飛び掛ってくる。

 イルが戦士を横薙ぎに斬り払う。が、戦士はその攻撃に一切反応せずに、魔法剣を自らの胴体で受けると同時に手に持った剣を振り下ろす。

 ただ力任せに振り下ろすだけの攻撃ではあるが、全く防御に頓着しない一撃がイルを襲う。

 胴に喰いこんだ剣を引き抜いたイルは、かろうじてその攻撃をかわすが、剣を叩きつけられた地面が深く抉られたのを見て、背筋に冷たいものが走る。

 まともに喰らえば問答無用で叩き潰されるだろう。

「くそっ、血もでやしねぇ」

 普通ならば、その一撃で死んでいてもおかしくない筈の胴の傷からは、一滴の血も流れていない。

 ならば、と、戦士の剣を持つ右手を下から撥ね上げる様に斬り飛ばし、返す刀を更に右足に叩きつける。

 片足を失いその場に倒れた戦士をそのまま放置して、レオンを助け出そうと馬車に駆け寄ろうとするが、残りの三体に阻まれる。

「ふむ……流石に強い。『人形』ごときでは足止めにしかならんか」

 だが、足止めできれば十分だ。と、ディアスは薄く笑いながら、短く唱えた呪文の力を解放する。

 不可思議な印を結んだその手を軽く振る。

 イルの周囲に白い霧がまとわりつく。

 咄嗟に口を押さえて霧を吸い込まないように息を止めるが、その判断は一瞬遅く、一気に身体の自由がきかなくなり、その場に膝をつく。

「後顧の憂いは絶っておきたいものだが……少しばかり遊びが過ぎたか」

 休憩所の騒ぎを聞きつけたらしい外門の衛兵たちが、数人駆け寄ってくるのを見て、ディアスは馬車に乗り込む。

 『人形』に指示して戦士の身体と斬られた手足を拾わせ、別の一体に呆然としているルフィを抱え上げさせて馬車に乗り込ませる。

「まぁ、元々お前にはたいして関係のない話だ。この事は忘れて自分の旅を続けるがいい」

 薄れていく意識の中、イルは遠ざかっていく馬車の姿をただ見送ることしかできなかった。


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