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序章
邪悪な魔術師から捕らわれの女性を救い出す極々普通のファンタジー小説です。
薄闇に包まれた室内、外は雨。
雨滴が窓に叩きつけられる音に混じる自分の荒い息遣いが、随分と遠くに聞こえる。
先程まで聞こえていた怒声や悲鳴は、もう完全に途絶えている。
硬い足音を響かせる悪魔の石像に短く罵声を浴びせ、背負った矢筒から残り少なくなった矢尻を掴み出す。
無機質な石の肌に傷ひとつつけられないとわかっていても、抵抗する術は他にない。
石材とは思えない滑らかな動きで石像が床を蹴り宙を飛ぶ。
全力で引き絞った弦から放った矢は、かわす素振りさえ見せない石像に軽く弾かれ床に落ちる。
次の矢を番える暇もなく、振りかぶられた石の爪が目の前に迫り、次の瞬間意識が暗く染まった。