私は叫んだ。「あのエルフー!!!」
小さい頃のことだ。
生まれた時から奴隷として扱われていた私は、強制労働にとうとうぶっ倒れた。
そこを見知らぬエルフに拾われたのが、私の「人生」の始まりだ。
やっと、「人」に成れたのだ。
そのエルフは私を「養子」にした。
『ねえ、ようしってなに?』
『君が僕の娘になるってことさ』
『ええっとじゃあ、ご主人様じゃなくてお父さんなの?』
『そこはお父様と呼んで欲しいな。これでも僕は貴族だからね』
『じゃあ…お父様!』
父のあの時の笑顔は、今でも覚えてる。
父は私に言った。
『君は僕の一人娘。きっと寿命の差で、君は僕より先に逝くだろう。でもだからこそ、僕は君の一生を見守ると誓える。だから、僕の目の届く範囲で幸せにおなり』
『はい、お父様!』
ここまではよかった。
ここまでは。
その後教わったことには、我が国は亜人種も纏めて受け入れる多種族国家で…その中でも父は皇帝であるハーフエルフの祖先。
長い時を生きる公爵様なのだ。
そして親族は皇族方以外もういないに等しい。
つまり。
『私がこうしゃくけをつぐの?』
『そうだよ』
『そうしたらお父様はどうするの?』
『楽隠居生活かな。子孫を見守りながらね』
『…なんで私?』
当然の疑問に、あっけらかんと答えたことには。
『君に才能があると見込んだからさ。それとちょっとの同情』
『ふーん…私はどうすればいいの?』
『今はとにかく学びなさい。遊びも、昼寝も、食事も、勉強も、寝るのも。君にとって必要なことは全て僕が万全にするから。学べば学んだだけ、君は強くなる』
『はーい』
そして地獄の勉強が始まった。
この父、実践が学びになると言っていきなり人をダンジョンに叩き込んだ。
もちろん陰から見守って本当に危ない時は助けてくれたけど、なにをやるにも自分の力でやれとの指導。
結果その辺の冒険者なんかよりよっぽど強くて経験豊富な幼児が誕生した。
「その後も酷かったわ」
魔術やらサバイバル術やらなにやらを実践で学ぶと、今度は座学。
座学なのに教科書でお勉強ではなく、領内の様々な研究施設に放り込まれてこれまた様々な研究を実践。
結果教養にも秀でた幼児が誕生した。
ついでにマナーも研究施設内で叩き込まれた。
「かと思ったら次は芸事よ」
手芸に歌に楽器に書道。
なにからなにまで実践形式で叩き込まれた。
この野郎と思ったが、なんだかんだで貴族学園初等部に入るまでに公爵家の跡取り娘として必要なことは身についていた。
『おめでとう、ライカ。君はどこに出しても恥ずかしくない僕の娘となったわけだ』
『うん』
『だからね、婚約者を見繕って来たよ。君に相応しい相手だ』
そうして紹介されたのは、とある侯爵家の三男坊。
将来女公爵となる私の婚約者。
『は、初めまして!よろしくお願いします!スプートニクだ!』
『お初にお目にかかります。ライカです、よろしくお願いします』
私の婚約者は、可愛い人だった。
くりくりの金の目に、白いお髪。
白い肌に、赤い頬と唇。
私なんかより、ずっと可愛い。
そう思っていたら、父は言った。
『ライカ以上に可愛い子なんて居ないよ!黒い髪に黒い瞳、白い肌にもちもちの頬!ライカは僕の最愛だ!』
続けて婚約者も言った。
『俺も、あの、ライカは可愛いと思う!』
『え、あの、私、声に出て…?』
『うん』
私はその日、羞恥心に悶えることになった。
そして貴族学園初等部入学。
公爵様の一人娘として私はちやほやされたり、妬まれたり、嘲られたり。
でも、そんな多くの視線を受けて萎縮しそうな私に婚約者は言った。
『ライカ、緊張することはないぞ!あんな有象無象からは、俺が守る!!!』
『スプートニク!』
スプートニクの気遣いが嬉しくて、私は彼を初めて恋愛対象として見た。
周りの有象無象扱いされた人たちはぽかんとしていた。
そして私はスプートニクと信頼関係を築いて、お互い少しずつ歩み寄り、やがてただの婚約者ではなく恋人となった。
のは、いいのだけど…。
時は飛んで貴族学園高等部。
スプートニクの周りに、〝聖女〟と呼ばれる小蠅がついて回るようになった。
「スプートニク様、そんな悪役令嬢なんかより私と遊びに行きましょ?」
「だから、俺はライカとこれからデートに行くと言っている。あとその〝悪役令嬢〟とやらは悪口か?なら容赦しない」
「もう、なんで!?私がヒロインで、そんな私がスプートニクを選んであげるって言ってるのに!」
この〝聖女〟…いや、性女。
何故か自分を〝この世界のヒロイン〟だと勘違いして、スプートニクに付き纏い始めた。
でもスプートニクは聖女をそっと押し除ける。
「俺にとってのヒロインはライカだけだ。悪いがもう付き纏わないでくれ。行こう、ライカ」
「ええ、そうね」
スプートニクの手を取ってデートに向かう。
後ろで聖女が歯軋りしていたが知らない。
そして貴族学園高等部卒業式。
このめでたい場で問題が起きた。
野次馬が集まる。
目の前には聖女を抱きしめ、私に婚約破棄を叫ぶスプートニク。
そして私は、私を庇うために前に出た父に肩を抱かれている。
「スプートニク、なんのつもりかな」
「ですから、その女が聖女様を害したため婚約破棄すると言っているのです」
私を睨みつけるスプートニク、スプートニクの腕の中で嗤う聖女、怒り心頭に発する父、聖女に呆れ返る私。
私を溺愛することで有名だったスプートニクが急におかしくなったと、周りは興味津々なご様子。
父の長い耳にそっと口を寄せて私は言った。
「お父様、魅了解呪の魔術と状態異常無効の魔術をスプートニクに」
「…ああ、そういうこと」
父は私の頼みを聞いて、魅了解呪の魔術と状態異常無効の魔術をスプートニクに掛けてくれた。
私が掛けてもいいけど、一応貴族学園高等部の卒業式の場なので自重した。
周りに能力を見せ付けるのははしたないからね。
そしてスプートニクは。
「ん、頭痛い…え、ライカ?なんでそっちに…は?聖女殿?なんで…ライカ!!!」
混乱する頭で、魅了から目覚めたスプートニクは聖女を押し除け私を抱きしめた。
「ごめん、俺何かライカにしたか!?無事か?怪我は?傷ついてないか?」
「大丈夫よ、スプートニク。私は貴方を信じているもの。でも状態異常無効のアクセサリーはこれから毎日身につけましょうね?」
「あ、ああ…わかった」
「そして、聖女様?」
にこっと微笑んで、一言。
「我が国では魅了魔術は御法度。貴女はこれから犯罪者として捕まりますわ。良くて永遠の皇国への奉仕、悪ければ命にも関わる罰が待っていますわ。ではご機嫌よう」
「衛兵!この者を!」
「はっ!!!」
「えっ…ちょっと待ってよ、私はただスプートニクを好きになっただけで!」
「言い訳は牢の中でしろ!」
ということで、ゴタゴタしたが即解決。
貴族学園高等部卒業も、なんとかこの後無事終了した。
まあ、聖女の噂で持ちきりにはなったけど。
「ということでライカ、スプートニク。状態異常無効のアクセサリーだよ。お互いがお互いの髪色の髪留めだ」
「スプートニク、つけてくれる?」
「もちろんだ…これでよし」
「スプートニクにも、私がつけてあげる」
こうして無事私たちは仲直り?を果たした。
聖女は皇国への永久奉仕が決定した。
で、父は。
「もっと早くに渡しておけばよかった。ごめんね?」
「いえ、いいのです義父上」
「…ねえ、お父様?」
良い話風に終わらせようとする父に微笑む。
「なにかな?」
「実は最初からスプートニクの魅了に気付いていたでしょう?私が気付くかどうか、最後の試験だったのでしょう?」
「あ、バレた?」
「やっぱり…このエルフー!!!」
ポカポカと父の胸を叩くが、父は涼しい顔だ。
「君たち二人の絆を試したんだ、ごめんね」
「もう!お父様のバカ!」
「義父上、さすがにそれは些か趣味が悪いのでは…」
「本当にね!」
でも、と呟く。
「お父様は私に過保護だもの。この騒動がなくても、どこかの時点で私たちを試したでしょうね」
「そうだね」
ニコニコ笑う父にむっとしつつもスプートニクは言った。
「二度とライカを裏切りません」
「それはもちろん」
「ライカを危険な目にも遭わせません」
「そうだね、それで?」
「一生愛し抜きます」
父はスプートニクに拍手した。
「その意気や良し。ただし魅了されては元も子もないけどね。そのアクセサリーは大事にね」
「はい!」
「ライカも、スプートニクを許せるかな?愛せるかな?」
「とっくに許していますし愛していますわ」
「なら僕も二人を喜んで祝福しよう」
祝福ついでにお小遣いをあげる、これで二人で遊んでおいでとお小遣いを渡されてデートに出かける。
ふとお小遣いを入れてくれたポチ袋を注視していると、透かし文字が。
『ちなみに君は僕の二人目の息子の、隠し子の子孫に当たるから正当な公爵家の後継者だよ。貴族社会にも今日それが伝わるようにしたから安心して公爵家を継いでね⭐︎』
「…あのエルフー!!!」
「ま…まあまあ、ライカは少し落ち着いて。義父上と血の繋がりもあってよかったじゃないか。その、サプライズがすごいけど…」
「ふんだ!こうなったら貰ったお金で遊び倒してやりますわ!行きますわよ、スプートニク!」
「ああ、愛おしい俺の…俺だけのライカ」
スプートニクと手を繋いでデートに向かう。
お父様、帰ったらほっぺを伸ばしてやるんだからね!




