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自然の摂理から逸脱した存在
『貴様も我をそう思うか』
(えっ……)
魔王の声が、頭の奥で……
無機質でいて、哀しみなのか、皮肉なのか、己が存在の誇示、己が存在以外の生物への卑下、圧倒的絶対的優位、選別思想。
そのどれもが当てはまり、しかし、そのどれでもないもっと別の思惑でもあったかのような……
戦いの火蓋を切るきっかけとなった、あの声が聞こえた……
「ヒイロ!」
ハッとして見上げると、黒い仮面の顔が間近にあった。
「戦いは終わった。戦いの記憶に飲まれてはいけないよ」
仮面の下の、まるで心を見透かしたような冷静な目で、なのに声は柔らかい。
「はい、王様」
「お兄様だよ」
えっと……まだ続いてたんだ
「……お兄様」
「よろしい♡」
なに?語尾の♡?なに?
勇者の国語辞典オープンしていい?
「だめだ。自分で考えなさい」
また心読まれたような〜
「ヒイロ、お返事は?」
「……はい」
深くは考えないでおこう。
「『はい、お兄様』とお返事してくれると嬉しいね」
「はい、お兄様」
「うん。いい子だね」
頭をさすさす、大きな手が撫でた。
「魔王の灰は王国が厳重に保管する。魔王が死ぬ事はない。何世代か後に必ず蘇る。歴代の勇者が倒してきたのは同じ魔王だ」
吸血鬼種である魔王に死の概念はない。
「次に魔王が蘇った時のために、魔王を弱体化させる必要がある。魔王の体の一部である灰を我々が握る事で、その手助けになる筈だよ」
よくやってくれたね、ヒイロ……
「チュッ」
今、額に仮面越しの唇が……
「エエェエエエェ~~~!!」




