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かつて、彼の時代に勇敢なる優しき者がいた。
闇色なる世界に希望の火を灯し、希望の火を守る者がいた。
やがて魔王を打ち払い、人々の幸せを取り戻し、希望の火を次代へと紡いだ彼の者を、人々は敬意を込めて『勇者』と呼んだ。
勇者は別の時代にもいた。
また別の時代にも勇者は現れた。
類い稀なる力を生まれ持って授かった者とも、大いなる力が覚醒した者とも、異世界から召喚された者とも云われている。
しかし、どの時代の勇者にも共通するのは『勇者としての素質を持つ者』である。
他者を思いやる心
決して諦めぬ心を持つ者が、どの時代においても『勇者』となっている。
勇者は素質を用いて、いつの時代も魔王を打ち破った。
ならば、魔王は?
『魔王は何故生まれる?』
絶望をもたらす魔王は、混沌たる闇から幾度となく現れ、何故人々に絶望をもたらすのか?
「答えは簡単だよ」
仮面の下
彼は目をすっと細めた気がした。
「魔王は生まれない」
これは……
「自然の摂理だ」
否、正確には自然の摂理から外れている。
なぜならば……
「魔王は死ぬ事を許されない」
そう、君の倒した魔王という存在は……
「吸血鬼種だ」