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至近距離の眼差しに、首筋が赤くなった。
吹き掛けられた吐息に、耳のひだが震えたような感覚になる。
「可愛い勇者。さぁ、言いなさい」
「……お兄様」
「いい子だ。今度は私の事だけを思って呼べたね」
どうして?
ドクン、ドクン
俺の心臓……
「おや、少し顔が赤いようだが?」
ドクンドクン
「大丈夫かい」
手袋越しの体温が左頬を撫でた。
ドクンッ
心音が脈打つ。
「大丈夫……」
……じゃ全然ないけど、
「……です」
「ならいいが?」
声はどこか心配そう。
あたたかな手の平が、俺の頬をさすってくれる。
「それで?」
王さ...…お兄様って言ったはいいけど。
どうしよう?
「遠慮はいらないよ。言いなさい」
ダメだ、言えない。
お兄様は間違いでしたなんて、言える空気じゃない。
「あの……魔王の灰ですが」
「君との謁見前に、従者から受け取っているよ。厳重な管理下で保管している」
魔王は灰になった。
俺は王さ...…お兄様の命に従って一握りの灰を持ち帰ったんだ。