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「君を見たら……」
(俺?)
「危険な旅だったんだろ。命を落とすかも知れない……でも、こうして君は帰って来てくれて、もう一度会えて、もう一度話せて……」
「そんなのっ」
当然だ。……と言いかけて、でも言えなかった。
今更だけど、生きて帰れる保障はなかった訳で……
貰い泣きしている兵士もいる。周りのあちこちで、大の大人が隠しもせずすすり泣く声が聞こえる。
大の大人だって、泣きたい時はあるんだ。
(俺も泣きそう)
出会った頃からは想像もできない。出会ってからもツンデレだから、想像もしなかった。
(いや、ツンはともかくデレは見てない気がする)
誰にも弱みは見せない、気高い貴族であるリッツが、人目もはばからず泣くなんて。
それも、俺のために泣いてくれるなんて……
(俺の事、こんなにも心配してくれてたんだ)
「平民のくせに……って馬鹿にしてたのに」
「黙れ。僕の感情だ。君に否定される謂れはない」
「そうだね」
(どうしよう。ほんとうに俺、泣いてしまう)
「さぁ、君達ここまでにしよう。陛下の御前だ。ピシッと締めようじゃないか」
先輩騎士と思わしき人が、俺とリッツの肩をポンポンと叩いた。
そうだ。もうすぐ、この謁見の間に王様がやって来る。
リッツが先輩騎士さんに一礼し、俺に軽く目配せした。
もしかすると、リッツを引き上げてくれたのは、この先輩騎士さんなのかも。
どれだけリッツが優秀でも、経験がない。彼の若さで王の謁見を取り仕切るのは異例だ。
(先輩騎士さんが口添えを)
そんな気がする。
「……後で時間を作ってくれ。大事な話がある」
何だろう?
すれ違いざま、鼓膜に囁かれた声。
チラリと視線だけを動かしたけれど、それって周りには聞かれちゃまずい事?
だから小声で、俺にしか聞こえないように……
不自然にならないように、小さく頷いた。
リッツが持ち場に戻ると同時に、鐘が鳴った。
居住まいを正して平伏する。
王様入室の合図である。
カラン、カラン、カラン