72
天井まで響き、床を震わせる大歓喜に包まれた広間が、しんっと静まり返った。
タッタッタッタッ
静寂に足音がこだまする。
タッタッタッ、タツン
足音は目の前で止まった。
「勇者」
柔らかな声だった。俺のよく知っている声。
「リッツ」
リッツェラ・レイ
王国騎士候補生で……うぅん、もう候補生じゃない。
「騎士になったんだね」
「あぁ、王宮直属の近衛騎士になった。今日の式典の責任者は僕だ」
「すごい」
「無理を行って申し出た」
「それは……」
えっと。
「君が帰ってくるんだ。どうしても俺が式典を主催して、君を迎えたい」
すうっと右手が差し出された。
「お帰り、ヒイロ」
「ただいま、リッツ」
ぎゅっと、その手を握った。
手に手が重なる。
重ねた手の上に、俺も左手を重ねた。
俺達の再会の握手に、ワァーっと歓声が上がった。
リッツとは色々あった。
彼は貴族の出自で、騎士学校に通い始めた頃は目の敵にされて、意地悪されたし喧嘩もした。
でも、それでも俺達はライバルだった。
(うぅん、それも違う)
「君に負ける気はないよ。僕達は今もライバルだ」
熱い体温の通う右手をぎゅっと握り返した。
「俺も負けない。でも、ありがとう」
彼がいたから、俺は勇者になれた。勇者として、魔王討伐の旅を挫けずに全うできたんだ。
「帰って来てくれて、ありがとう。君の帰還を僕も、我ら騎士団一同誇りに思う」
あぁ、そうか。
リッツは今、騎士団代表として俺と握手しているんだ。
(俺もしっかり挨拶しないと)
……って。何も考えてない。どうしよう〜
……って☆
「ちょっ、リッツ!」
なんでっ。
「なんで泣いてんの?」
「……え?」
頬に手を当てて、その雫の正体が涙だと気づく。