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「……」

「……」

「……」


 何か変な事言った?


「フフ」


 ひらめいた風が、微かな笑みを運んだ。


「そのような事を仰られては、ヒイロ様をお可愛らしく想い愛でる感情を禁じ得ません」


 なぜ?

 なんで?


(なんだ?この不穏な空気?)


 空気が凍りついている……のではない。

 俺だけ時が止まっている。

 俺だけ置いてけぼりになっている。


 ただただ本能が告げているのだ。



 生命の危険を!



 俺はただ、顔には何も付いていないから正直に……


(………………)


 きれいな顔だって。


「正直に言い過ぎてしまったー!」


 見れない。

 見られない。

 彼の顔。


「フフフ」


 慈悲か、狂気か……




 彼の瞳に映る俺は……



「フフフフフフフフフフフフフフ」


(ブルブルブルブル)


 想像したくない!!


「……麗しき小鳥」


 左腕は俺の体を抱きしめたままで、白手袋をはめた右手がふわりと喉元を撫でた。

「貴方様に触れる事を、どうかお許し下さい」

 今度こそ魅了の魔法?

 でも魔力を感じない。

 なのに体が動かない。魔法にかけられた形跡はない筈なのに、彼から視線を逸らせない。


 艶めかしい唇が微かに開いて、息を吐く。指先を噛んで、器用に手袋を外した。


 ひらひら、と……


 重力に引かれて、空をゆらゆら舞いながら落ちていく白い手袋が羽のようだ。


 トクン


 鼓動が跳ねる。

 緩やかな体温を感じた。素肌の指が頬に触れたから。


「美しく……」

 指先が頬をなぞった。

「気高き勇者である貴方様に、かようなお褒めのお言葉を賜り、光栄の極み。身に余る栄誉で私は今、打ち震えております」

「そんな大袈裟な!思った事を言っただけで、俺なんかより執事さんの方がずっときれいですから!」

「私のような召人(めしうど)に情深いお言葉を」

「勇者とか執事とか、身分は関係ないです!執事さんがほんとうにきれいだから、言ってるんです」

「ヒイロ様が私の顔をお気に召して下さり、嬉しゅうございます」

「顔だけが好きっていうんじゃなくて!執事さんの気配りとか、細やかな配慮とか、すごくしっかりしていて、そういうのもひっくるめて好きで。だから顔だけ好きって訳じゃ」

「……ヒイロ様」


 漆黒の瞳の奥が、ふわりと柔らかな光を帯びた。


(そんな顔もするんだ)


 物腰柔らかに話していたけれど、それは執事という職務だから。


 けれど一瞬。

 ほんの少し垣間見た微笑みにも似た瞳の中の優しい色彩は、彼の素顔のような気がした。


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