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艶美な声色がヴェルベットローズのように耳朶を包んだ。
……反射的に見上げてしまった。
抗えない糸に手繰り寄せられるかのように。
刹那
白と黒が反転する。
隻眼の瞳孔が白に。
瞳を囲んでいた白が黒に。
人間の目とは反対の配置の色。
(しまった)
とられた。
僅か数秒。
しかし見つめたその数秒は、
(魔法を仕掛ける時間としては充分)
長い睫毛をゆっくり伏せる。
次に開く時。
(魅了、それとも洗脳)
どちらかが発動する。
身動きできない。すでに精神魔法に囚われている。
「……私の顔に何か付いておりますでしょうか?」
「え、はい?」
「誠に申し訳ございません。身だしなみの不手際をお詫び申し上げます」
心底すまなさそうに隻眼を細めた。
(あれ?)
パチパチパチン
ちゃんと瞬きできる。自分の意思で。
小さく身じろぎしたら、すぐ彼の腕がぎゅうっと痛くない力で抱きしめてきたけど。
(指先、動いた)
彼に見つからないように少しだけ、人差し指を曲げて伸ばしてみた。
ちゃんと動く。
指も、腕も、体も。
指先まで、つま先まで、自分の身体だ。
魅了にも洗脳にもかかってない。俺、魔法にかけられていない。
目の色も元に戻ってる。
隻眼は、人間の目と同じ配置の白目と黒目だ。
光が眩しい。
翼の向こうに太陽を背負う。見上げた瞬間に差した陽光のせいで、俺の目が色彩判定を誤作動したのだろうか。
「失礼ながらヒイロ様、私めの顔のどこに何が付いているのか、教えて頂けませんでしょうか。直ちに身だしなみを整えますので」
揺らいだ闇色の玲瓏が覗き込んだ。
どうしよう?
あなたの目を見つめて、時を忘れていました……なんて言えない。
俺、どうすれば……
「言えないような物が付いているのでしょうか」
不安に揺れた闇色の宝玉の瞳が迫る。
(あわわ、近い〜!)
ドキドキドキドキ
このままじゃ、俺の心臓が超新星爆発を起こしてしまう☆
えぇい!こうなったら腹を据えるぞ。
(ほんとの事)
言うぞー!
「執事さんの顔はきれいです!」