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シュヴァルツは任務の最中だ。
俺は魔王を倒して勇者としての使命を遂げた。
けれどシュヴァルツは違う。国と国民を守る使命に終わりはない。魔王という脅威がなくなった今も。
騎士の矜持を持って臨んでいる。
俺……
今の俺にできるのは、この手を離す事だけ。シュヴァルツを掴んでしまった手を……
(あれ?)
握っているのは、俺じゃなくてシュヴァルツの方?
離そうとした手に重なって、大きな手の温もりが添えられている。
どうして?
(シュヴァルツは急いでるんじゃ)
「戻ったら時間を作る。話を聞かせてくれ」
「はい」
何気ない一言にほっとした。そうして嬉しくなった。
いい気なものだって笑われるかも知れないけど、口数の少ない師匠の気持ちが嬉しいものなんだ。
「勇者様はシュヴァルツと仲がよろしいのですね」
「え?」
「私などはシュヴァルツのまとう気迫のオーラに恐れおののいて、何も話せなくなってしまいます。ですが勇者様は物怖じせず、シュヴァルツも勇者様を気にかけていらっしゃるように、お見受けします」
「そうなのかな?」
「そうですよ」
二人でシュヴァルツを見送った後、にこりと彼は微笑んだ。
「申し遅れました。侍従長を務めますゼフィルと申します」
「俺は勇者のヒイロです」
「はい、宜しくお願い致します」