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「はんこん?」
「死者を蘇生させる秘匿魔術です」
そんな魔法があるんだ。
「でも死者って?」
申し訳なさそうに、彼は隻眼の長い睫毛を伏せた。
「ヒイロ様の心臓は動いておりましたが、反応がありませんでしたもので、おいたわしいお姿になり魂を持っていかれたのかと」
つまりそれは……
「俺が死んじゃった!と」
「はい。こうなりましたら、アンデットとして蘇らせようと考えました」
つまりそれは〜!
「ゾンビー!!」
「その通りでございます」
それは死者蘇生か!?
なんという不穏極まりない魔法を使おうとしていたんだ、この執事は!!
そして、どうして優雅ににっこり微笑んでいるんだ??
「ヒイロ様がどのようなお姿になろうとも我が伴侶。アンデットになっても、私の愛は変わりません」
……愛が重い。
「あの、えぇっと」
「はい」
にっこり。
「ううぅ〜」
愛が重いのは今に始まった事じゃない。
注意したいのだが、かの執事の無垢なる笑顔の前に何も言えなくなってしまう。
「そういう危険な魔法は、ちゃんと意思確認してから……」
「ですが」
「ううぅ〜」
そうだった。声を無視していたのは俺な訳で。
「とにかく!」
しかし言いかけた気持ちは、一瞬にして薙ぎ払われた。
わわ!
刹那の瞬き。
俺の体は堅牢な両腕に包まれていた。
「ヒイロ様がご無事で安心致しました。私は、ヒイロ様の温もりが好きですので」
トクントクン
胸の奥を穿つ規則正しい鼓動が暖かい。
(ちょっとだけ速いかも)
ほんとうに俺の事、心配してくれてたんだ……
暖かな鼓動に、からだ全身を包まれている。
こういうのも悪くない。誰かは誰かに必要とされていて、執事さんは俺を必要としてくれている。だから本気で俺を心配して、今は心から安堵してくれている。
そんなふうに感じる温もりが好き。
俺は執事さんの……
………………え?
(なに言いかけた?俺)
ちがう!そうだ!
俺は執事さんの温もりが好きなのであってー!!
「結婚しましょう」