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拳がもう一人の俺の左胸を貫いたと同時に、触手が染まる。
赤く、もっと赤く。みるみる深紅に。
リッツの命を吸っている。リッツの命が尽きるまで。
「リッツ!」
声が出る。意識の流出が止まったからだ。
「《スキル》解いて!」
このままじゃ、触手にリッツの血液全部が奪われる。
なのに、どうして?
もう幻覚の俺は壊れている。
原型を留めているに過ぎない。なぜ?
「リッツ!」
叫ぶ。
「聞いてるのかッ、リッツ!」
リッツが応えない。事は一刻を争うというのに。
カツン
傷だらけの床に靴音が響いた。
カツン
また一つ。
「相国」
ここからじゃ、間に合わない。
「リッツ、逃げて!」
しかし相国は……
ぽんっ
リッツの肩に手を置いた。
「気絶しているな」
「そんな……」
リッツが気を失っている。そんな、それでは。
《スキル》を止める術がない。
「起きてッ!」
お願いだから、リッツ。このままじゃ、触手にっ。
全部、血を!
絶対神域はいまだ健在だ。
触手が破壊されても動いているのは、リッツの生を起点にしているからだ。
終焉からの再生。しかし、リッツの存在がなくなれば、再生は終焉を迎える。
触手が真っ赤に、もっと赤く染まっていく。