18
果てなく長い旅路。
激闘の末、世界から光を奪い、永久の闇に覆い尽くさんとする魔王は、勇者によって討ち滅ぼされた。
世界は光を取り戻した。
花が咲き、木漏れ日が揺れ、雨が降り、虹が輝く。
世界に平和が訪れた。
この世界に生きる人々は、もう魔王に脅える事はない。
夜が来ても安心して眠り、やがて朝が訪れて、明日という日を迎えて笑い合う事ができる。
そうして未来は連綿と続いていく。
世界は生きとし生けるもの、全ての生命で満ち溢れている。
俺は、真の勇者になったんだ……
(俺、思い残す事はなにもない)
だから昇天します。
(いや、ほんとうは思い残してる事、山ほどあるんだ)
もっと旅つづけたかったなぁ。
俺を送り出してくれた王様や、王国の皆に再会して、ありがとうって言って、そうして新しい旅をしてみたかった。
生まれ変わった世界の色んな場所に行って、美味しい物いっぱい食べて、たくさんの人に出会って……
(結婚……も、ちょっぴりしてみたかったかも)
あ、でも結婚すると旅に行けなくなっちゃうか?
家庭を顧みず冒険ってのも、人としてどうかと思う。
(ま、ゲームとか異世界転生もののラノベだったら問題ないんだけどね)
旅の仲間に迫られたりとか、旅先で出会ったお嬢様に見初められたりとか……ラブコメ的な展開、全然なかったなぁ。
ぼっち旅だったし♠
何にせよ、今の俺にとっては贅沢で関係のない悩みだ。
もうすぐ俺は天に召されるのだから。
……「私を置いて逝く事はなりません」
突如、脳の深奥に直接響く、おどろおどろしい声。
「《死者蘇生・反魂の法・怨恨の儀》……」
「ストーーップ!」
ハァハァハァハァ
めちゃくちゃ俺、べっとり寝汗をかいている。確実に嫌な汗だ。
「おや、主様。生きていらっしゃったのですね。良かったです」
むぎゅう〜
「わー、きゃー!」
「美しく気品あるこのお声は、まさしく主様!」
むぎゅぎゅ〜
「待って、待ってー!さっき、すごく恐ろしい声が聞こえたんだけど?」
禍々しいオーラも感じた。
「それは反魂の秘法ですね」