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風が振り払う。
「効かん」
一閃の風に触手を霧散する。
「どんなに屈強な動物でも関節は鍛えられない。哺乳類の弱点の一つである関節を抑え、私の動きを封じたのだろうが...…」
わずかに相国の顔色が変わった。
「これは」
吹き飛ばした箇所から順に、触手が再生を始める。
「……《終焉からの再生》、そういう事か」
壊れた箇所から修復を始める。触手がみるみる元の形を取り戻し、再び相国を縛り上げた。
「絶対神域下で《スキル》が発動できるのも、このためか」
再生速度が異常に速い。
絶対神域の破壊を上回る速度で、触手が再生するのだ。
赤い触手
「再生、か……だが、それだけではあるまい」
この触手、
「ベニクラゲだ」
「ほう」
二人が頷き合った。
片方は冷静に、もう片方は忌々しげに。
(勇者の国語辞典、密かにオープン!)
開いた。
(『ベニクラゲとは、不死のクラゲである』)
成体に成長したベニクラゲは、寿命を迎える直前に初期化される。
ポリプと呼ばれる最初の状態に戻り、幼体を経て再び成体へと成長する。これを気の遠くなるほど長い年月……何百年と繰り返すのだ。
死は訪れない。
若返り、生を繰り返す。
(《スキル》破壊を行う絶対神域は、不死の特性を持つクラゲに通用しない)
まさに天敵だ。
「だが弱い!」