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「所詮は偽物」
純白の翼が天に広がった。
「偽物の翼では、私に届かん」
翼が羽ばたく。
「届く」
リッツは止まらない。
止められない。
視覚を閉ざされた今、相国は正確な狙いを付けられないのだ。
「甘い。動きは既に封じている」
相国の言葉に不吉なものを感じた。
「リッツ、腕!」
右腕に数本の羽が刺さっている。床に突き刺さっていた羽だ。先程の羽ばたきで巻き上がったのか。
「こんなものが」
「『こんなもの』で貴様は落ちる」
ふらり……
空中でリッツがバランスを崩す。
「リッツ!」
「大丈夫」
「強がるな」
まただ。リッツの体、バランスが取れていない。
「毒か?」
「そんな物よりもっと凶悪だ」
風が失速していく。
「貴様の三半規管を壊した」
(羽!)
床に刺さった羽
腕に突き刺さった羽
風になびくのではない、不自然な揺れを繰り返している。
相国の技は協力だが、補助系が多い。相国自身の魔力が大きいから、補助が強力な攻撃に変わってしまう。
今、リッツにかけているのも、本来の補助系の技だとしたら?
「振動!」
羽の振動が、
「貴様は私の視覚を封じたらしいが、私は貴様の聴覚を封じた。聴覚を封じるという事は、体の平衡感覚をなくす」
気づかぬ間に壊したんだ……
「内耳前庭、三半規管、耳石器。微細な振動が平衡感覚を司る器官を破壊した」
純白の翼が翻る。
「羽虫が哺乳類を称するならば、抵抗してみせろ。哺乳類」