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床に刺さった羽が揺れた。
野原に咲く蒲公英の綿毛のように。
「粘膜への攻撃……視覚を封じた。狙いも定められないようだな」
相国は目を開けられない。粉々に砕けた剣のせいだ。土と砂煙舞う中で、リッツには羽一本すら当てられなかった。
「問題ない」
床に刺さった羽が揺れた。
さわさわ、さわさわ
羽が揺れている。
今にも飛び立つのを待つかのように……
さわさわ、さわさわ
(なに?)
この胸騒ぎは?
さわさわ、さわさわ揺れる羽がまるで生き物のように。
剣は失われた。
しかし、リッツは剣を取ろうとしない。自分の長剣は大破したが、仲間達、騎士団の剣がある。使おうと思えば、いつでも剣を握れる状況なのだ。
なのに、敢えて剣を使わない道を選ぶという事は……
(リッツは剣を使わない方が強い)
徒手空拳が最大の武器だ。
剣や槍は騎士の象徴だから、今まで使用していたに過ぎない。
「紫狼隊は剣と槍の陣形による集団戦術を得意とする。朱獅子隊は炎を使い、一斉攻撃で敵を仕留める」
白鷲隊隊長が声を紡いだ。
どちらの隊も一糸乱れぬ統率が要となっている、と。
まだ起き上がれぬ体で、天井を仰いだ。
「俺達は……」
シャンデリアの灯に手をかざす。
「俺達の空は自由だ」
高く掲げた手を拳に変えた。
「飛べ」