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「ほんの一瞬で構いません。主様、お目を閉じて下さい。このままではドライアイになってしまいます」
「……」
「困りましたね。私の声が聞こえないのでしょうか」
「……」
「パッチリお目々、可愛らしいですよ。麗しく可愛い御方よ、私の言う事を聞いて下さい。ねぇ、主様」
フゥ……
ビクンッ
端の掠れた声が耳朶を這って、熱い吐息がくすぐった。
「耳が赤くなりましたね。僅かながら反応も見られました。良い兆候です。もう一度試してみましょう。……主様、フーぅ」
耳の襞、狙いすましたかのように吐息を吹きかける。
ビクビクンッ
「あぁ、なんとお可愛らしい。私の腕の中で、もがくように打ち震えながら小刻みに体を震わせて……主様だというのに、禁断の嗜虐心まで煽られる。素晴らしい反応です。……私、ただの雄に成り果ててしまいそうです」
ビクビクビクビクッ
「おっと、失言を。申し訳ございません。さて、主様に仇なす魔力は感じられませんし、なぜ私のお声が届かないのか皆目見当が付きません。何らかの魔力が、主様の感覚を阻害していると考えていたのですが、魔力でないとするならば……」
執事さんは小さく頷き、決意を固める。
「お耳そうじすれば、声が聞こえるようになるかも知れませんね」
エェェーッ、そっちィィー!
声が聞こえないのは、実は勇者たるに相応しい貞操を守るため、聞こえない振りをしているのであって!
「それではお耳、失礼致します。まずは右耳から……」
えっ、ちょっ、なんで?
どうして執事さんの顔が近づいてくるの?
「お伝え遅れ、申し訳ございません。ここは空の上。綿棒を使いましての通常のお耳そうじですと、勇者様を落っことしてしまいます。ゆえに私の舌で、お耳そうじ致します事をご容赦下さい」
エエェェエー!!
そんなの聞いてない。
「真っ赤に熟れたお可愛らしいお耳、失礼致します」
カプっ
チュー
………………ぷしゅー
「おや?ヒイロ様の額から、何やら水蒸気のようなものが抜けていったような?」
俺、昇天します。
「ヒイロ様ァァー!」