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刹那。
先行した騎士が声もなく、一瞬で凍りついた。
「防御陣形敷け!」
異変に気付くが、間に合わない。
一人、また一人、凍りつく。
ある者は槍を構えて走り出そうとして、またある者は警戒の姿勢で、一人、そうしてまた一人と、氷の彫像と化していく。
槍の影響。
青い火を灯した槍が、騎士達を。
そうじゃない。
槍さえ、炎ごと凍っている。
氷が床を侵食する。
「隊長ッ」
背後で声が上がった。
「危険で……ス」
「お下がり……ヲッ」
後詰めの騎士達が次々に凍り付く。
「朱獅子隊!」
《ディスペル》も獅子の炎も効かない。
完全抹消結界は破られていない。ここはまだ《絶対神域》の中だ。
「満足か?羽虫共」
ガキガギガキガキィッ
翼に刺さった全ての槍が凍り、砕け散った。
そうしてキラキラと幽玄に舞う、結晶。
「希望は見せた」
声が黒くトグロを巻いた。
「だが」
男は艶然と微笑んだ。
「一瞬で全員を氷漬けにすれば、愚かな希望と薄っぺらい誇りを抱き、陶酔の中で死ねただろうが」
チロリ
赤い舌が唇を舐めた。
「慈悲は持ち合わせておらん」