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遠くで声が聞こえる。
「ヒイロ様、しっかりなさって下さい」
目を閉じていると深く感じる。美形のこの人は低音の声まで美しい。
あぁ、そうだ。この声を紡ぐ唇が触れて、
(キスを……)
「ヒイロ様!」
「ふひ〜」
「可愛らしい囀りですが、お返事もままならぬご様子。突然ぐったりされて、主様は大丈夫でしょうか」
心配かけてごめん。
でも今、目を開けたら心臓が再び超新星爆発を起こす。
(あの美形が至近距離にあるんだ)
目をつぶっていても、吐息の熱を感じる。
もしも今、美形執事さんを間近に映してしまったら、硝子の心臓が大破し、俺はもう生きてはいまい。
「ヒイロ様、私の事は分かりますか?」
「うひ〜」
ごめん、執事さん。
俺、気を失う事にするね。
「良かった。このような状態でありながらも、私の事は認識されているご様子。少し安心致しました」
ため息にも似た小さな安堵の息を吐いた。
「そうですよ、私はヒイロ様の伴侶です」
「ひっ!」
「おや、体がビクッと跳ねましたね。どのような状態になろうとも、夫に抱かれているのが嬉しいのですね。さぁ、もっと抱きしめて差し上げましょう」
ぎゅむ〜!
「うぴィィ〜!」
「お可愛らしい中に、溢れんばかりの気品に満ちたお声。主様はどのようなお姿になられても麗しい」
ほぅっと唇から、熱い吐息が漏れた。
「私、勃起してしまいそうです」
パチンッ!
「おや、ヒイロ様。お目覚めでございますか」
パチンッ
「お声は如何なさいましたか?お話になって宜しいのですよ」
パチンッ
「まばたきなさって宜しいのですよ」
パチンッ
「お目覚めになってから、一向にまばたきなさいませんね」
パチン、パチン、パチンッ!
「??」
パッチーン!!
目を閉じたら最後。貞操の危機である。
絶体絶命。
我が身を守るために、この目は絶対に閉じられない。