158
「羽虫が五月蝿いぞ」
すがめた眼に紫苑の光が灯った。
結界が変異する。
防御の結界に、攻撃的な魔力が増幅する。
「退け!」
俺よりも早く、お兄様が叫ぶ……が。
「贖え、羽虫共」
結界から腕が伸びた。
腕が騎士団を拘束する。
「グアァァーッ」
骨が軋む。魔力付与の装甲ごと、
「結界の腕が」
騎士団をねじ伏せる。鎧ごと腕の骨を砕く。
「退い……」
退いて下さい。
言いかけた言葉をグッと飲み込んだ。
今、後ろに下がって逃げれば、結界の青い腕は、容赦なく騎士の腕を引きちぎる。
結界の腕一本一本が、力ずくでもぎ取るだけの豪腕だ。
ならば、どうやって?
(どうやったら、この窮地を乗り切れる?)
「グワァー」
「グオォー」
剛健な騎士達が悲鳴を上げる。
どうやったら?
時間もない。しかし、この窮地を救う戦略すら何も……
「退くな!我が騎士達!」
高らかに声が響いたのは、その時だった。
「お前達は、勇敢なるアルファング騎士団である。我が誇りだ」
(お兄様)
「騎士の誇りを踏みにじられたならば、取り返せ!」
高らかに声を掲げるお兄様が檄を飛ばす。
(うぅん)
違う。
「お前達を踏みにじるのは、我が面前を土足で汚したも同じだ。私に恥をかかせて、お前達は退くか?」
お兄様は...…
「お前達の誇りを踏みにじった輩を前に、私は退かぬ!ならば、お前達の道は一つだろう」
怒っている。
「踏みにじられた誇りは、自らの手で取り返せ!誇り高きアルファング騎士団よ、立ち上がれ!」