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だが。
青光が黒い蒸気にかき消される。
そんなっ。
通常の解呪ではない法印を用いた高等魔術なのに。
「組み換えたか」
「ご名答。公式も法文も演算も《オリジナル》だ」
つまり、相国の幻術は公式通りの解呪では解けない。
「幻術の中に囚われている限り、高等魔術も下位魔法へ置き換わる。そういう風に、私が幻術を作った」
「幻術を消されるのが怖いか。幻術が消えれば死刑だからな」
「消してから言え」
「うぐぁ」
蛇がお兄様の右手に噛みついた。
「神経毒だ。指の感覚はあるまい。言っただろう。楽には殺さんと」
法印はもう描けない。
「まだ左手の自由は残してあるが?」
「陛下!」
その時だ。
三人と、三人。それぞれの騎士が立ちはだかった。
声の方向に、相国の影が反転する。
「これ以上、好きにはさせん!」
「よせ、お前達!」
しかし、お兄様の制止より早く。
「破邪なる顕彰、揺れ蠢く祈り、宵闇よりきたる意志に籠絡せよ!《拍停止》タップ!」
カンッ
装甲をまとう両手を合わせ、手を一度、打ち鳴らした。
初めて見る。
亜流魔法だ。一部の部族のみに代々受け継がれてきた魔法があると聞くが。
たった一度の拍手。
その一秒。
時間を歪める。
取るに足りない一秒。
だが、その一秒が戦局において勝敗を左右する。
相国の動きが止まった。