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「そんな……」
相国の言う事が確かなら、広間にいるこの場の全員が幻術にかかっている。
「それでも、お兄様を助けないとッ」
「なりません、勇者様!」
「たけどッ」
「陛下との約束をお忘れですか」
俺はこの線から外に出てはいけない。だが、そんな事を言っている場合では。
「我々とて助けたいんです!」
「兵士さん……」
「近衛兵団全員が同じ思いです。しかし今、不用意に動けば、相国の新たな幻術にかかる可能性があります。そうなれば、陛下を我々が傷つけてしまうかも知れません」
ぎゅっと兵士さんは拳を固めた。
「相国の幻術は強力です。対抗できるのは、この中で最も魔力の高い陛下のみです。だからこそ、短慮で陛下の集中力を削いではならない。我々の心は一丸となって、陛下と共に戦っています」
一歩、線から足を下げた。
(勇者なのに.…..)
俺は……
「無力じゃないですよ。諦めない限り、力になります」
「そうですね」
一つ頷いて、視線を上げた。目の前で、お兄様が戦っている。
諦めない限り。
加勢のチャンスは必ずやって来る。
諦めるには早い。
腕も、足も動かない。
だが。
指だけを動かして、お兄様が法印を描いた。
印が青く光った。
「解呪」