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ビュンッ
声もなく。
薙刀の柄が空を斬る。後ろに飛び、お兄様がかわした。
「言葉だけか?行動が伴わねば政治家失格だ」
「公約しよう。国のトップとして」
床に落ちた薙刀の刃を靴のかかとが踏みつけた。
バリンッと粉々に割れて、黒い蒸気を噴く。
カンッ
甲高い響きを立てて床を薙刀が突いた。黒い蛇が這い上り、柄に絡み付く。
「ならば……」
ギランと蛇の目が光った。
「絶望しろ、己が非力に」
胴が九つに分かれて、お兄様に突進する。
「幻術は見飽きた」
「幻術と分かっていても幻術にかかる」
蛇がお兄様に絡み付いた。
「『引き千切れば、お前の手足も千切れる』」
頭の奥がグランと揺れた。
「幻術の完成だ。言の葉は脳にインプットされた。
蛇を引き千切れば、手足が千切れ、蛇を引き千切らなければ、蛇に手足を引き千切られる」
「そんな事ッ。幻術が実体に害を為せる筈ない」
「残念ですが現実ですよ、勇者様。実体が引き千切られずとも、脳に引き千切られる痛みが走れば、実体が引き千切られたも同じなのです」
黒い蒸気が噴いて、薙刀の刃が再生した。
「これが幻術。そして、言の葉は聞いた者全てに有効である」