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風の中で声が響く。
吹き飛ばされたないよう、何とか踏み留まる。目すら開けられない暴風で、それでもどうにか薄く瞼を開く。
「どこだ?」
相国は?
位置を把握しないと。
(どこから攻撃してくる?)
ブワンッ
風が裂けた。
「アイスファング第二形態」
鞘が幾筋にも分かれて格子を作る。
格子がお兄様の右肩を覆い、腕と剣が一体になる。
「《レジスタンス》!」
ガギィンッ
「貴公の獲物は短い」
鉄扇を止めた。
防御を兼ね備えた氷の魔剣が、格子で鉄扇を覆い捕らえた。
「なるほど。しかし止めただけでは」
「このまま貴公を凍り付かせる」
氷の格子
枝のように伸びたその先端が、鉄扇を持つ相国の右手首に突き刺さっていた。
氷が浸透する。
今まで見えなかった右半身が人の形を象っていく。
同時に床に伏していた相国の胴体が消滅していく。
(幻術)
相国の《スキル》は幻術だ。
しかし得意の幻術も、氷の中に囚われては身動きできまい。
「アイスファング第三形態。凍てつけ、《クリスタルケージ》」
氷の格子が宙を這い、枝を宙に伸ばして、相国を覆っていく。
手首に突き刺さった氷の棘を起点として。
「このまま私を氷漬けにする気か」
完全に姿を露にした相国が目をすがめた。
「だが私はまだ動けるぞ?」
長い袖が揺れた。霜が降りて零れた前髪を、左手でオールバックに整えた。