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「丁重に」
そうお兄様は静かに告げた。
もう声はない。出す事もできない。胴から離れた首はシャンデリアの灯を見上げている。
その双瞳に光はない。
胸のドキドキがおさまらない。
あっけなく終わった。相国の死によって。
お兄様が終わらせた。
『英断とは冷酷である』
言葉は、事実で真実だ。
それでもまだ、胸のドキドキがやまない。
守るための最善。
それをお兄様は実行した。
冷酷な英断を……
バサリ
近衛兵達によって白い布がかけられた。
アイスファングの魔力の影響で凍りついた床を覆った布は、相国の首のない体も一緒に包んだ。
ズキンッ
(なに?)
奇妙な感覚が心臓を穿った。
痛みじゃない。しかし、痛みのような感覚。内側から、体の内部から鋭利な刃物で刺されたような。
心臓の鼓動が内側から食い破ってくるような。
バタリ
悲鳴もなく……
精鋭の近衛兵が床に沈む。
背中を一閃、袈裟懸けに斬られた跡が……
(誰がっ!)
「陛下……」
良かった。息がある。
絞り出す声が空気を振動させた。
「お逃げ……下さい」
震える手で、床に落ちた白い布を引いた。
そこには相国の首のない胴体がある筈が……
「ない!」