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とわのあい……
せせらぎの水面のように、瞳が陽光を反射する。
きれいな黒だ。
ひらり、ひらりと輝いて……
「どうかお受け取り下さい」
瞳がゆっくり降りてくる。
「誓いの口づけを」
(えっ)
バサリ
背中の羽が風に羽ばたいた。
キス……されちゃ……
チュ♥
「………………ぅ?」
おでこがあったかい。
温もりは一瞬で、すぐに離れてしまったけれど。
「跪いてヒイロ様のお手を取り、額に掲げた後、手の甲に口づけを落とすのが本来の慣わしですが、ここは空の上。習わし通りに致しますと、大切なヒイロ様を落っことしてしまいますので、ご容赦を」
「……はい」
「これで『ふぁーすときす』とやらも、お守りできましたでしょうか?」
(もしかして執事さん)
それで額に?
「決してヒイロ様に危害は加えませんので、ご安心下さい」
この人、俺が考えいる以上に優しい人なのかも……
「ぼーっとしておいでですね。何かご不安な点がおありですか」
「いえ、そんな訳では」
「良かった」
頭上で小さな息をついたのを感じた。
この人は本当に俺が傷つくのを心配しているんだ。
「それでは、アルファングへ戻りましょう。馬車は王都郊外に駐留しております。陸路の移動では半月はかかりますので、私が赴いた次第でございます」
そうだった。話が色んな方向に飛んで忘れてしまっていたけど、執事さんはアルファングの使者だった。
「主様、私にしっかり掴まって下さい。少し飛ばします」
伸ばした手を執事さんの首元にまわす。
自然と体が密着する。
(俺、こんなきれいな人とキスした)
額だけど、キスはキス
(キス、されたんだ……)
「はい、素直に言う事を聞いて下さり、嬉しい限りでございます。私を離さないで下さいね。お出来になりますね、主様」
ドキンドキン
今頃、胸が熱くなる。
(どうしよう)
キスの後でそんなふうに言われたら、別の意味に聞こえてしまう。
(執事さんは、空の上で危ないから離さないでと言ってるだけなのに)
それなのに……
ぎゅ。
「離そうとなされても、私が離しませんよ」
フフ……
微笑みは羽音がかき消した。