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「勇者様」
背後からの声に背中がビクンと跳ねた。
「それ以上はいけません」
「あっ」
踏み出せない。
分かっているのに。足はラインのギリギリまで進んでいた。
「すみません」
「いえ、お気持ちは察します。しかし、陛下とのお約束です」
「分かっています……でもっ!」
俺、みっともない。何を八つ当たりしてるんだ。
「勇者様、陛下は約束を守る御方ですよ」
言葉を聞いた心の中、あたたかい何かが流れた。
すうっと不要な熱が引いていく。
「陛下は守ると決めたものは必ず守り通します。そして」
その目はお兄様の背中を追っている。
「陛下をお守りするのが、我々近衛兵の務めです」
と……
「この務めは誰にも譲るつもりはありません。どうか勇者様は、陛下とのお約束をお守り下さい。そして、我々を信じて下さい」
「はい」
この線の中に踏み留まる決意をする。
線の外に出る行為は、ここに終結する近衛兵全員の誇りと志を踏みにじる事になるから。
「返事は即答だったな」
長い沈黙の後、お兄様が応えた。