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「これは……」
「どうしましたか?」
俺の後ろ。
王剣を預かる兵士さんが、グッと眉間に皺を寄せた。
「陛下は試されておられます」
相国の答えの後。
長い沈黙が支配する。
お兄様はまだ答えない。
「……試されているって?」
極めて小さく、囁くような小声で兵士さんに問いかけた。
「公にはされていませんが、ガルディンの金は低く見積もっても、世界市場の六十パーセントを占めています。世界の流通量の半分以上がガルディン産の金です。市場の半分を優に占める金の価格が突如、下落すればどうなるか……」
低く重い息を一つ、兵士さんは吐いた。
「世界恐慌が起こります」
「そんなっ!」
「落ち着いて下さい、勇者様。金の価格の下落は世界経済の大混乱を招きます。陛下は今、大きな岐路に立たされています」
金の価格を吊り上げるも、下落させるも、相国の思い一つ。
(世界が人質に取られている)
「こんな方法って……」
「これが相国のやり方です」
強欲の翳……
目的のためには手段を選ばない。
(せっかく平和になったのに)
こんな方法っで人々の平和を脅かす。
「勇者様、これが政治なのです」