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「急報!」
その時だった。
突如として、広間の扉が乱暴に開け放たれた。
しゃがみこむように、兵士が跪く。
「都崩れです!」
息も整わぬまま、兵士は伝令を続ける。
「都崩れが面会を求めています」
「都崩れだと?」
「はっ。日を改めるように伝えましたが譲らず、門兵と交戦になり、我が軍に怪我人が出た模様」
「死者は?」
「おりません」
良かった。
不幸中の幸いだ。
(けれど『ミヤコクズレ』って?)
なんなんだ?
「国語辞典、密かにオープン」
勇者の国語辞典には、異世界用語集も付いている。
『都崩れ』とは……
魔族でありながら、魔王傘下に属さない勢力を指す。
「人類に敵対する存在ではないが、友好的でもない。か……」
しかし、これでは……
宵闇の帳が落ちたこんな時間にやって来て、面会が認められる筈がない。
宣戦布告だ。
無理な要求の末に起こった小競り合いを口実に、何かを仕掛けてくる気じゃ。
「魔王に組さず自治を守れる勢力だ。実力は侮れない」
耳打ちしたリッツの顔は神妙だ。
「実力者であるからこそ、魔王軍は『都崩れ』という蔑称で呼んで、相手を意図的に格下扱いしているくらいだ」
「国交もないし、適したことばもないから、我々も魔王軍の呼称を使っているけどね」




