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じゃあ、あの魔法は?
人が使えない、存在すら知らない魔法を、なぜあの人は……
(簡単に使って見せて)
俺と一緒に空を飛んだ。
でも、その魔法は人間は使えないんだ。
あの人は、王国で開発された新魔法だなんて、どうして嘘をついたの?
(まさか、あの人が)
次なる魔王の実力を持つ、上位魔族
「でもあの人はッ!」
執事さんは、
「俺に危害を加えませんでした!」
俺をただ、王国まで運んでくれただけなんだ……
命を奪おうと思えば、いつだってできた筈だ。
けれど、俺を人質にすら取ろうとしなかった。
(夕焼けの広場で、普通に別れた)
普通に話をして。
普通にまた合えるって。
そう思っていた。
たった、それだけの言葉を伝えるのが難しくて。
たった、それだけの言葉なのに怖くて。
胸が苦しい。
肺の中に重りが吊り下がっているようだ。
「現時点で、その者が無関係だとは断定できない」
言葉の厳しさとは裏腹に、声はひどく穏やかだった。
「容疑を晴らすのは難しい」
息を切らして上下する肩に手を置いて、背中をさすってくれる。
「だが君が真実を教えてくれれば、容疑を晴らす手がかりになるかも知れない」
君を連れてきたのは誰だ?