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「ストーーップ!」
バサッバサッ
羽の羽ばたく音が空に響いた。
「大声を上げられずとも聞こえますよ。……お傍にお控えしておりますので」
不意に潜めた声が耳のひだを撫でた。
フゥっと吐息が吹きかかって、
「ひゃ」
耳が熱い。
「おや?お耳が真っ赤ですよ。お熱を召されましては一大事でございます。僭越ではございますが、私が暖めて差し上げましょう」
ぎゅむ〜
「ヒャアァァ〜」
「美しき声で囀る小鳥よ、私の提案を受けて下さいますね」
ブンブンブン!
「おや?千切れそうなくらい首を振って。ご不満な点でも?正妻の座は確定ですよ。それとも、結納をまだ済ませていないからでしょうか?」
結納……
本格的なやつだ……
それに正妻って。
(俺が妻になるんだ)
男なのに。グスン。
そこはかとなく哀しい。
とにかく!
「結納はいりません」
「そうは参りません。由緒正しき勇者様をお迎えするのですから。正しい手順を踏まねばなりません」
この状況のどこが正しい手順?
「元々は俺の専属執事になるって話じゃ」
当初の内容から、かなりかけ離れてしまっている。
勝手に専属になるのはどうかと思うが、まずは話を振り出しに戻そう。
「そういうものでございます」
「………………ふへ?」
「ヒイロ様が真の主となり、私が専属バトラーになるという事は、寝食を共にし生涯を過ごすという事です。つまりこれは、伴侶でございましょう」
「エェェエエエー!」
違う。それ、絶対違う!
「私が専属バトラーとなったからには、ほかに執事を付ける事はなりません。正妻待遇で身命を賭してお守りし、この身をヒイロ様にお捧げ致します」
「捧げないで!」
「生涯ただ一人の我が番、私だけの愛しき主様」
「話聞いてー!」
執事さん。
「ふつつか者ではございますが、末永く宜しくお願い致しますね」
キャ。