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仮面の下、穏やかな声の中に譲れぬものがある。今のお兄様からは……
「君は誰と帰ってきた?」
どういう意味?
質問の意図が分からない。
答えられずにいると、お兄様が微かに息をついた。
小さくて、しかし重い吐息。
「今となっては腕のみの残骸となってしまったが、あのプロトタイプの役目は君を迎えに行かせる事たったんだよ」
災害救助用ドールは、どんな悪路も走行可能である。
「催促最短で君を迎えに行き、特殊転移装置を用いて王国に帰還する。そういう手筈だった。しかし君は帰ってきた。ドールは王宮内で壊されていたのにね」
君は一体……
「誰とここに来たんだい?」
俺は……
(執事さん?)
まさか、あの人がドールを壊して……
そんな事、考えたくない。
だけど。
ドールがいたのでは、俺とあの人は出会わなかった。出会えなかった。
「俺は」
言っていいのか?執事さんの事。
今、その事を伝えれば執事さんが犯人確定になってしまうのではないか?
執事さんを信じたい。
けれど、この場の全員を説得できる要素がない。
「そんな顔をしないでくれ」
うつむいた頬を手袋の冷ややかな感触が撫でた。
「君を疑っている訳じゃない」
クイっと顎を上げさせられて、仮面の視線が交わった。
「君が手引きしたなんて、私もこの場の誰もが思ってもいないよ。ほんとうの事を教えてほしいだけなんだ」