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「ご推察の通りかと」
「存在を知らしめるためにわざと」
お兄様の声がいつになく低い。王宮で何が起こっているんだ?
「……ヒイロ」
背後から声をかけてきたのはリッツだった。
「あれは王宮で極秘裏に開発されていた人形機械。アンドロイドだ」
「やっぱり」
何となく、そんな予感はしていた。
「試作品プロトタイプではあるが、最終段階の稼働テストに入っていた」
「戦闘用か?」
ドールが戦闘用だったら……それをあそこまで大破できるなんて。考えたくないが、王国の脅威。宣戦布告ともとらえかねない事態だ。
「いや、災害救助用だ。人が入るのに困難な場所だったり、二次災害を防ぐために作られた。それだけに頑強」
「戦闘に応用できる力も持っている……」
「そういう事だ」
戦闘用ではないが、いざとなれば戦闘に配属もできる。
「それをここまで破壊されたとなっては、王国のメンツは丸潰れ……」
「しっ」
聞き役に徹していたじょうかんに静止された。
「申し訳ございません。しかし」
「ここからは、陛下がお決めになる事だ」
「はい」
俺達は静かにお兄様の動向を見守る。
「事態を軽んずるつもりはない。しかし、今は平和的に解決する時期だ」
「はっ!」
近衛騎士団の中でも特に上級とおぼしき数名が頷いた。
「かといって看過は許さん。襲撃犯を検挙せよ」
「御意!」
かツンッ!!
長槍の柄を一斉に床に打ち付けて、忠誠を示した。
「君に尋ねたい」
響き渡った硬質の空気の余韻が覚めぬ中で、声は静かに波紋を落とす。
「ヒイロ」
と、名を呼んだ。